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ESA報告:術前の非心臓手術に対する術前心臓血管機能評価

投稿者:内野

カテゴリ : 学会

ESAでは、学会終了後もpowerpointで講演を再度聴講できる。今後、できるだけ多くのシンポジウムやセミナーを翻訳して紹介できればと思う。第一回は、

Preoperative cardiovascular assessment for non-cardiac surgery: update of the guidelines

 

である。以下に要約と図を示す。

 術前の心機能評価の重要性について述べています。

心疾患を有する患者の大手術後の周術期心合併症の発生率は、心臓死1.3%、AMI3.1%、心停止0.2%、心臓に影響を及ぼすoutcomeの発生率3.9%に対し、全体の中では、臓死0.3%、AMI1.1%、心停止0.4%、心臓に影響を及ぼすoutcomeの発生率1.4%である。

周術期の心筋梗塞発生の要因として外科手術、麻酔、低体温、出血、貧血、などが考えられる。炎症、過凝固、ストレス、低酸素が誘発され、plaqueの崩壊に伴う冠動脈の塞栓、酸素需要と供給のアンバランスにより心筋虚血が誘発されることから、周術期の心筋梗塞発生へとつながると考えれている。ACC/AHA2002ガイドラインによる非心臓手術後の心血管系評価を711の末梢血管患者を対象に200412月までオランダの11の病院で施行した。非侵襲的な検査が必要と考えれられているグループでは80%近い患者が、また、ガイドラインに一被したテストが行われていなかった。さらには、非侵襲的な検査が必要と考えれられているグループとその必要性がないグループの患者は、βブロッカー、スタチン、抗血小板薬の内服を同程度に行っており、1年後の死亡率も両群で有意差はなかった。このstudyの問題は、ACC/AHAガイドラインの理解がほとんどなされていない状況下で施行され、検査が必要とされた群の患者の5人に1人の程度しか実行されておらず、また、検査が必要にもかかわらず施行されなかった患者では、心臓に関わる検査等はlow risk患者と同様な扱いを受けていた。手術に伴うリスク発生率とその可能性を有する手術を示している。予定手術か、緊急手術かにより心臓機能の評価に費やせる時間が変わってくる。Step2active cardiac conditionsとは、不安定狭心症、NYHA class IVの心不全、圧格差40mmHg以上の大動脈狭窄症、努力性呼吸苦、欠神発作、心不全を伴う僧房弁狭窄が存在する場合を指す。また、患者の状況によりstepのアルゴリズムが変化していく。No riskから3つ以上のリスクを抱える患者における手術では、No risk以外は、おおむね手術を初めて心電図のHRや波形に変化が出現した際にはどのように進めるかを再度考慮するとされているまた、心臓合併症の発生するリスクがhigh(5%以上)intermediate(1-5%)low(1%以下)に分類され、各手術毎に注意が必要としている。周術期の心臓リスクをCardiac Indexとして表した

European Society of Cardiologyの非心臓手術のリスク評価のガイドラインはAHAによく似ているただし、心臓リスクを抱えている患者にはβブロッカーまたはスタチンの内服を推奨している。周術期のβブロッカー投与は果たして予後に影響を与えるのであろうか?非心臓手術患者におけるβブロッカー投与エビデンスに乏しく、疑問が残ると結論している。しかし、βブロッカー投与を周術期早期から投与して中止する場合のmeta-analysisの結果からは、周術期の心臓合併症をやや減少させるかもしれないが、治療を要する徐脈や低血圧が増加すると思われる。ただ、major eventの数もそれほど多くない状況かつ方法論的に弱いと考えられる解析で行われたことやmeta-analysisの累積のために解析に用いられた暫定的なモニタリングでの異常と正常の境界線からは、周術期のβブロッカー投与のエビデンスは乏しいか結論づけるのは難しいと述べている。

周術期のβブロッカー投与を行ったPOISE trialからは、手術の24時間前に内服させ、術後6時間以内に内服させ、12時間後に内服させ、その後第30病日まで継続させた。

周術期の心筋梗塞は非投与群に比べて有意に減少したが、脳梗塞は有意に増加した。30日後の死亡率は、βブロッカー投与群で有意に高かった。さらには、CVに伴う死亡率や心不全等も軽減しなかった。βブロッカー投与群は、非心臓手術に伴う周術期の予後を改善しなかったと述べ、POISE trialの結果はβブロッカー投与に伴う低血圧が原因ではないかと結論していました。そのため、演者は、AHAは、βブロッカー投与における彼らの主張を少しトーンダウンする必要があるのではないかと述べていました。

2009年のAHAガイドラインではβブロッカー投与は継続すべきとしてエビデンスは、classI:エビデンスCとなっています。中等度のリスク患者へのβブロッカー投与はその効果が不確実と考えられています。さらには、βブロッカー投与を減量なしにルーチンに行うことは有害であると結論していました。

術中の麻酔管理については、循環動態の安定している患者の非心臓手術に吸入麻酔薬を用いて麻酔の維持を行うことは有用であるとAHA2007ガイドラインはエビデンスレベルBとしています。European Society of Cardiologyのガイドラインでは、非心臓手術ではどの麻酔薬を用いても構わないが、心臓手術においては新機能を考慮した薬剤の選択を行うことが有用であるというエビデンスを報告しています。Lindenらが2010年に行った報告では、吸入麻酔薬とTIVAで血管外科手術の麻酔管理を行ったときの心臓血管系の合併症はTIVAが有意に高かったとしています。一方で、Zangrillo等は、非心臓手術時に吸入麻酔薬と静脈麻酔薬を使用したことがどのくらい心臓保護に働くかを検討した結果では、死亡率や合併症において両群で差がないことを報告しています。

次に硬膜外麻酔が患者の予後を改善するかというmeta-analysisの結果は、硬膜外使用群と非使用群で死亡率・合併症において有意差を認めておりませんでした。しかし、硬膜外を用いた方が30日後の死亡率が有意に低いとの報告もあります。これらの結果は、30日後の硬膜外麻酔による予後のわずかな改善は、検討を行った数が少なくその解釈には注意が必要と結論づけています。しかし、硬膜外麻酔は、術後疼痛の軽減、呼吸器合併症の予防に有用と考えられるが術後の予後を改善するというエビデンスには乏しいと結論しています。

臨床に於いて、患者を評価する際、ガイドラインを用いることは有用ですが、必ずその結果をフィードバックしてガイドラインの有用性を検証していくことが大切であるとしています。

 

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