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"女傑" 日本産科麻酔学会学術集会(横浜)

投稿者:柿沼

カテゴリ : 学会

コロンビア大学麻酔科 名誉教授 森島久代先生(80歳) の講演がありました。images.jpg

日本から麻酔科医として渡米し、麻酔科・小児科医として有名なヴァージニア・アプガー博士(アプガースコア)に師事し、後にコロンビア大学の初の女性教授、麻酔科教授となり、産婦人科教授兼任となり、現在は名誉教授となっている女傑です。日本の麻酔科医のフロンティアであり、女性医師のフロンティアであり、現在も日本の女性医師、産科麻酔に対して啓発をしている人物です。

こんなにも偉大な日本人の麻酔科医がいるのを知りませんでした、しかも女性医師としての希少な成功者でもあります。

1,2年前の日本麻酔学会にも講演をしているようですが、今回も同様なメッセージを伝えていました。

ひとつは、日本の産科麻酔が未だ発展途上にあること、特に基礎研究が少なすぎると言わざるを得ない。

しかし米国で最新の産科麻酔を修練し広めている先生方がいるのは喜ばしい事ではある。morishima.jpg

もうひとつは、女性医師に関する意見で、これも自分に厳しく米国の競争社会に打ち勝った人間らしいかなり辛辣な意見を述べていました。

静かな迫力に圧倒されましたがとても大事な事を教わった気がします。

産科麻酔学会は、無痛分娩をはじめた産婦人科医たちの分娩と麻酔からはじまり、現在は、産婦人科医半分・麻酔科医半分のバトルロイヤルです。その中でも、成育医療センターの角倉先生、埼玉総合医療センター照井先生などは、麻酔科医のオピニオンリーダーとしてしっかり活躍していました。

産科麻酔に関しては、無痛分娩に携わるか否かが大きな課題です。日本の自然分娩絶対主義に対しては前述の森島先生も訴えていましたが、大きく日本は発展途上ともいえます。そして、これからが面白い分野と思えます。ちなみに私の3人の子供は、皆、無痛分娩です。杉並の衛生病院での出産でEpiカテコントロールであり産科医による24時間体制のもので1人目は1月1日でもEpiによる無痛分娩を提供していただきました。

 

 周産期センターを持たない我々ですが、先端の産科研修を軸に研鑽を積んでいけば、例えば年間1500例を越える戸田産院を南埼玉一の無痛分娩センターにする事も、数年のうちに可能だと思いませんか?我々の力で。

 

 

森島 久代 米国コロンビア大学医学部麻酔科・産婦人科教授

 ジェンダーの問題が社会的に認知されるようになると共に、今までおろそかにされていた「女性の健康」が注目される様になった。過去における大多数の医学研究は男性が対称であり、女性独特の身体構造、疾患、治療に対する反応は軽視されていた。 米国政府は1990年に女性の健康に関する特別機関, The Office of Research on Women's Health (ORH) を設立し、次の三項目を主目標とした。先ず女性の疾患と健康障害の原因となる環境に関する研究の増進、及び国立衛生研究所 (NIH) へ女性の健康問題の研究をとりあげるべく働きかける。次に NIHが支給する研究資金の元に行われる生物学、動態生物学に関する研究、殊に臨床実験には女性患者も加える。最後に、医学生物学に携わる女性の数を増やし彼女等の学術の促進と地位の昇進を図る事を指示した。著者は殊に第三の主目標である「医学における女性」について触れたい。

 日本の医学部入学試験の難関を突破する女性の数は注目すべきものであり、医学部卒業生の成績トップを占める女性の数が多いことは喜ばしい限りである。ところが著者はある機会に、日米共同研究のため長期滞日したアメリカ人学者から次の質問を受けた。「日本には非常に優秀な若い女医や女性研究者がいるのに、学術部門で地位の高い中年以上の女性は数少なく、学会のプログラムを見ても女性は余り座長を務めていないのは不思議でならない、一体あの様に優れた沢山の女性達は何処へ行ってしまうのだろう。」更に、恩師 Apgar 教授がこの世を去る時著者に残された言葉は、「私の時代は、そして最前線にある今の貴女も、いまだに改善されない男性優位の医学社会を生きてきた。故に認められるためには私達は男性より遥かに優れていなければならない運命にある。そしてこの不公平は貴女の娘達の時代になる迄改善されないだろう。」であった。

 さて21世紀の医学に向かっての橋渡しに貢献する現在の女医の立場は Apgar 教授の夢を叶えただろうか。残念ながら日米両国共に最高学府にあってさえ男女の偏見問題は完全に解消されていない。しかし 高度の教育を受け優れた女性の能力が中年になって伸びなくなるのは女性側にも責任があると思われる。

 著者はジェンダーの問題と関連して、米国における医学部女子学生及び女医のめざましい進歩、及び同等のキャリアーを持つ男性と比較して昇進は未だに遅れをとっている現状、その原因の幾つかを記し、今後如何にしてこの問題に取り組むべきかに触れたい。更に医学を志す若い女性に対し、男性優位の医学社会で米国の人種の差別も経験しながら医学の道に半世紀近くを過しながら得た著者自身の個人的なアドバイスをさせていただきたい。

 1990年代初頭以来、米国の医学部入学時における女子学生の割合は約四十%であり、しかも彼女等の九十% 以上が長く厳しい医学教育を受け終わった努力を無駄にすることなく医師として活動を続けている。それにも拘わらず、大学での昇進は男性側が明らかに優位である。彼女等の臨床医として、教育研究者としての活動を阻害している原因は男性と比較してより多い。例えば妊娠、出産、育児、子供の教育、家事、家族との人間関係は勿論、これに関する職場での充分な理解と支援に乏しいことが挙げられる。

 近年医学関係のみならず多くの企業団体が職場における女性の福祉と地位の向上に尽力している。しかしここで自分が女性であるという性別意識の上での要求や善意に期待するのは甘えであり、これに依存している限り職場の偏見を改善する事はむつかしい。職場と家庭のバランスを保つためには、家庭では家族のメンバーが思いやりの心をこめて協力し、努力して男女平等の関係を築き上げ、職場に入れば直ちに仕事に熱中出来る頭の切り替えを習得することが望ましい。これに加え、柔軟性のある職場の選択、経済的な面での平等は勿論基本的条件であるが、最後に著者があえて強調したいことは、如何なる困難に遭遇しようとも前向きの姿勢で、自分自身が選択した医学の道に誇りと情熱を抱き、これを終身的な職業として専念する強い意志を失わないことである。

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