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学会・研究会の報告

ISO(国際標準化機構)年次総会報告

投稿者:平林

カテゴリ : 学会

 2011年6月13~17日までカナダ・バンクーバーで開催されたISO(国際標準化機構)の年次総会にISO日本代表委員として出席してきました。一昨年のスウェーデン、昨年のニュージーランドに続き3度目の出席となります。


 そのバンクーバー滞在中、アイスホッケーの優勝を決めるスタンウェイカップに地元バンクーバー・カナックスが100年ぶりに出場し、街は盛り上がっていました。到着日の夜はカナックスが勝利して3勝2敗で王手をかけたのですが、結局は3勝4敗でボストンに逆転負けを喫してしまいました。街では暴動が起こったのですが、警察当局はとあるブロック内では暴動を容認し、そのブロック外で暴動が起こらないように封じ込めました。100年前に負けたときには完全に暴動を抑えようとしてひどい目にあったそうです。翌朝、そのブロック内のビルのガラスは叩き割られ、パトカーはひっくり返り、所々出火した跡があり、ひどいものでした。そんなことがありましたが、バンクーバーは清潔感があり寿司の美味しい街でした。
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 ISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)とは国際的な標準である国際規格を策定するための民間の非政府組織で、様々な分野にまたがっています。私が担当したのはTC121 / SC4 (ANAESTHETIC AND RESPIRATORY EQUIPMENT / ANAESTHESIA VOCABULARY)です。ANAESTHESIA VOCABULARYといっても麻酔全般の用語ではなく、呼吸器のモードに限定した用語の標準化を行おうとするものです。
SC4の出席者は、議長 S. Dain (カナダ)、書記 K. Ledez (カナダ)、N. Jones (イギリス)、T. H. White(アメリカ)、そして私、平林剛(日本)の5人だけでした。たったこれだけでいいのか?と驚きましたが、アットホームな雰囲気で、英語が話せない私が発言しようとすると暖かく耳を傾けてくれて居心地は良かったです。以前SC3に出席したときは何も発言できる雰囲気ではなかったのと対照的です。
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現在の呼吸器モードの用語は余りにも数多く、我々ユーザーが人工呼吸器の理解を困難にしている大きな原因となっているようにも思われます。例えばIPPV; Intermittent Positive Pressure Ventilation CPPV; continuous positive pressure ventilationに関しては陽陰圧式が存在した過去はともかく、現在あえてCPPVIPPVの違いを区別する意義はありません。また、現在の人工呼吸モードはすべてCPPVの概念(すなわちPEEPを付加した換気法の総称)の範疇にあります。そう言った意味でIPPVCPPVなどは歴史的使命を終えた用語で、時代的にそぐわない古い用語と言えます。

各人工呼吸器製造メーカーごとの呼び名の違いも存在します。AutoFlowDrager )、PRVC; Pressure Regulated Volume ControlSiemens Servo)は若干の差があるが基本となる原理は同じ概念の換気モードで、簡単に表現すれば先行する換気において計測したコンプライアンスに基づいてPCVレベルを演算し自動設定することで、圧制御型の換気で擬似的に量換気を提供する機能です。

BIPAP; Biphasic Positive Airway Pressure (Drager)は二つのCPAPレベルを交互に切り替えることでCPAPに換気補助能力を付加したものです。APRV; Airway Pressure Reliese Ventilationは狭義のBIPAPの変法で、低圧相には一つの呼気のみの状態をAPRVと呼ぶ。BiPAPRespironics社の登録商標で、BiPAPBiIPAP(Inspiratory Positive Airway Pressure)EPAP(Expiratory Positive Airway Pressure)の2つのPAPという意味です。これらも基本となる原理は同じ概念の換気モードです。

一般的な名称や、各人工呼吸器製造メーカーごとの呼び名の違い、使われることばの曖昧さと多様性を整理して標準化するべきであるとの要望が出てきました。SC4ではそれら乱立する呼吸モード用語を大まかに4分類、すなわち強制換気あるいは自発呼吸補助に分け、さらにそれぞれをFlow-ControlあるいはPressure-Controlに分ける提案がされました。

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これから原案が作成され、今後各国で審査されて修正され、投票による承認を得て標準化されることになります。今後の日程は、2012年1月にボストン・ケンブリッジで中間会議、2012年6月に京都で年次会議が予定されています。

ISOの委員として3年目を迎えましたが、英語もできるわけでもなく、貢献できているわけでもありませんが、5年後あるいは10年後にはもう少し活躍できるよう自分自身に期待しています。

                              八王子医療センター 平林剛



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