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学会・研究会の報告

ESA報告 敗血症における抗菌療法 

投稿者:内野

カテゴリ : 学会

ESAの中で紹介できなかった発表をホ-ムページから拾い上げて順次紹介していきたいと思います。

今回は以下のテーマです。

「Antibiotic therapy in patients with septic shock」

敗血症患者における適切な抗菌療法とはどのようなものなのか?

Mc Cabe等(1962)の報告では22%(適切な抗菌療法群)vs48%(不適切な抗菌療法)であったが、Young等(1977)の報告でも28%(適切な抗菌療法群)vs51%(不適切な抗菌療法)とあまり変わっていません。Martin等(2003)の報告ではSeptic shockの患者に対する抗菌療法を適切に施行した群の死亡率(56%)は施行しなかった群(78%)より低かったが、どちらの群も高値でした。Kumar等(Chest 2009)の報告では、感染の原因となる菌(グラム陽性、陰性菌、真菌、嫌気性菌)や感染部位に拘わらず、適切に抗菌療法を施行した群はしなかった群より有意に生存率が高いことを報告しています。抗菌療法を行うために必要なことは、①患者がcommunity由来かhospital由来か②どのような環境で感染が起こったのか③どのような微生物が原因となっているのか④感染部位⑤いままでの治療経過等の情報を得ることが大切であると述べています。

人工呼吸器関連性感染症(VAP)、Septic shock、重症Sepsisなどでは、適切な抗菌療法が概ね9割以上施行されていることが報告されています(Ibrahim CCM 2001, Leone 2003 CCM, Bernard NEJM 2001)。

Kumar等の報告では、Septic shockの患者では、抗菌療法を始めるまでの低血圧の持続時間が生存にもっとも重要な影響を及ぼすことを報告しています。抗菌療法を低血圧発生1時間以内に行った場合の生存率は80%以上で、5時間後を堺に生存率は50%以下になって行きます。死亡率の増加は、Septic shock発生2時間後から徐々に増加していきます。抗菌療法が10分間遅れるたびに死亡率が1%ずつ増加して行きます。そのため、早期の抗菌療法が重要であると述べています。

Resusucitation Bundle SSCによると、4500名以上のSepsis患者で治療開始一時間以内に抗菌療法を行い得た患者は50%しかいませんでした。EGDTの中の6時間以内にCVP8mmHg以上、ScO2>70%以上を達成できたのはCVPが30%、ScO2が2割しかありませんでした。もっとも施行率の高い検査は乳酸測定(70%)、血液培養(60%)でした。fluid resusciationは55%の患者で治療開始一時間以内に施行されていました。SSCではEGDTの目標には6時間以内にはなかなか到達できていませんが70%近い患者で病態の改善を認めたと報告しています。

カルバペネム抵抗性のクレブシェラや緑膿菌の出現が問題となってきています。

近年、metallo-β-lactamase NDM-1産生多剤耐性大腸菌がインド、パキスタン、イギリスで発生し話題となりました。

セフェム系抗生剤耐性の緑膿菌はドイツ、オーストリア、ギリシャで頻度が高く、イギリスや北欧ではあまり高くありません。カルバペネム抵抗性の緑膿菌はトルコ、ギリシャ、イタリア、旧ユーゴスラビア、オーストリアに多く、イギリス、北欧に少ない傾向があります。ただ、ニューキノロン抵抗性の緑膿菌はヨーロッパの国々に拡がり問題となりつつあります。また、ニューキノロン抵抗性の大腸菌はトルコで感染症の50%以上を占めるという特徴があり、確実にヨーロッパの国々で増えて来ております。第三世代のセフェム系抗生剤抵抗性大腸菌も増えて来ており南欧やトルコでは全体の感染症に占める割合が高くなってきています。

MRSAは、ヨーロッパ全体で増えておりますが特に南欧で増加が著しく、ポルトガルでは感染症の50%以上を占めています。また、最近は、バンコマイシン抵抗性のブドウ球菌がすこしずつ各国で増えていることが報告されました。

このように、緑膿菌、MRSA、アシネトバクターなどの多剤耐性菌はヨーロッパでもかなり問題になっていることが明らかとなりました。

いくつかの抗菌薬を併用する経験的な抗菌療法は、グラム陰性菌に対する予後を改善することが報告されています。特に、重症感染症患者では、アミノグリコシド系の抗菌薬との併用はニューキノロン系の薬剤との併用より広いレンジをカバーできるメリットがあることも明らかにされました。(Mieck 2010)

Kumar等の報告では、死亡率が25%以上の病態(Sepsisやseptic shock)では、抗菌剤の併用療法が単独療法よりも有用であるが、死亡率が15%以下ではあまり有用でないと報告しています。

Septic shockやCritically illの状態にある患者」では抗菌剤の併用療法が単独療法よりも死亡率を有意に下げることも報告されました。

アミノグリコシド、ニューキノロン(フルオロキノロン)、マクロライド・クリンダマイシンとβ-lactamの併用が有意に死亡率を減少させると報告しています。緑膿菌に対するニューキノロン系の感受性の低下がここ10年来指摘されてきており、こなるべくニューキノロンの使用を抑えてアミノグリコシドと多剤を併用することの有用性が報告されてきています。

多剤耐性の、緑膿菌、クレブシェラ、MRSA,アシネトバクターに対してポリミキシンBが用いられていますが、この薬剤は最後の切り札的な要素を含んでおり安易に用いて耐性を誘導してしまうことを避けるべきであると警告しています。(Zavascki 2007)

アミノグリコシドの濃度が12mg/ml(血中かIn vitroか述べていません)以上であれば生存率が高い(高い抗菌薬の濃度が必要)。そのため抗菌薬のPharmakokineticsを理解する必要があると強調しています。

要点として、以下を挙げています。①低血圧発生後は60分以内に抗菌療法を開始する。②複数の薬剤を組み合わせて行う。③アミノグリコシドと他の抗菌剤の組み合わせが望ましい(議論の余地あり)④抗菌薬のPharmakokineticsを理解する⑤患者の病歴、感染源の特定が重要

 

感染に対する早い取り組みが重要で、予後に繋がるという発表でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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