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学会・研究会の報告

日麻リポート 「ALI/ARDS」

投稿者:奈倉

カテゴリ : 学会

  遅くなりましたが、日本麻酔科学会に参加した報告をさせていただきます。今回は発表がなかったので非常に気楽な気持ちで参加しました。

  自分は今はICUのスタッフなので今回の学会はALI/ARDSや敗血症、血液浄化、DIC等、集中治療に関するセミナーやリフレッシャーコースを受けてきました。その中からリフレッシャーコースの一つの「ALI/ARDSの最新の考え方」について紹介します。

ALI/ARDSに対する治療として①一回換気量・気道内圧を制限する、②PEEPを適切に設定する、③虚脱肺胞をリクルートメント手技で再開放させる、という肺保護的人工呼吸管理が提唱されています。

その他に、ある特定の換気モードのALI/ARDSに対する効果についての話もありました。高頻度オシレーション換気(HFOV)は高い平均気道内圧と少ない一回換気量で換気を行うので、有用な肺保護的人工呼吸となり得ます。Airway pressure release ventilationAPRV)は高いPEEPを間欠的に短時間下げることで換気補助効果が期待できます。高いPEEPを維持することで肺胞開存を維持する肺保護戦略の一つです。どちらも酸素化能が一時的に改善するという臨床研究の報告はありますが、予後を有意に改善するという大規模な臨床研究報告は現在までのところないようです。

また、薬物療法についての話もありました。筋弛緩薬は人工呼吸関連肺炎や筋力低下を招くとされ通常は使用しませんが、筋弛緩薬投与でARDS患者の生命予後が改善したという報告があります1)。発症48時間以内の重症ARDS患者を、筋弛緩薬投与(cisatracurium)群とプラセボ群に振り分けると、筋弛緩薬群で90日後の死亡率が低く、圧損傷の発生が少なかったそうです。

補助循環(ECMO)の説明もありました。ECMOの効果については1990年台に一旦否定されました。しかし最近の報告によると、ECMOは通常の人工呼吸に比べて6カ月後に身体障害のない生存率を有意に改善しました2)。ただし6カ月後の生存率には有意差が認められていません。

 最近のALI/ARDSに関する話題の中では、筋弛緩についての報告が今までの筋弛緩薬に対する評価と違い、とても印象的でした。真面目な話ばかりですみません、学会中は楽しい事もあったのですが、楽しい時の写真を撮り忘れたのが反省点でした。

 

1)      Papazian L,Forel JM,Gacouin A,et al : Neuromuscular blockers in early acute respiratory distress syndrome. N Engl J Med 2010 ; 363 : 1107-1116

2)      Peek GJ,Mugford M,Tiruvoipati R,et al : Efficacy and economic assessment of conventional ventilatory support versus extracorporeal membrane oxygenation for severe adult respiratory failure (CESAR) : a multicentre randomised controlled trial.Lancet 2009 ; 374 : 1351-1363

 

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