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SGA麻酔の覚醒時トラブル 〜麻酔研修カードver.10〜

報告者:石崎

カテゴリ : 関連病院 勉強会

麻酔研修カードを3枚増やしました。
 ① マスク換気の極意
 ② 気管挿管の手順
 ③ 声門上エアウェイの注意点
の3枚です。

戸田 麻酔研修カードver10.009.jpg
戸田 麻酔研修カードver10.010.jpg
戸田 麻酔研修カードver10.011.jpg




③声門上エアウェイの注意点については、3つ目の覚醒時トラブルが肝です。
いわゆる、レミフェンタ麻酔で経験される声門閉鎖や筋硬直についてですが、
以前、慈恵医大の木山先生が臨麻のシンポジウムで、
声門閉鎖しているけど筋硬直のない症例もあれば、
逆に、筋硬直しているけど声門閉鎖のない症例もあるとお話されていました。

私の最近の経験では、
気道内圧が上昇して陽圧換気ができなくなった場合でも、
血中CO2濃度が上昇して、たまたま自発呼吸が入る様になると、
今までの換気不良が嘘のように、突然大きな深呼吸となり、
「これで声門閉鎖が解消された」と思って用手換気すると、固くてやっぱり入らない、
まだダメかと思っていると、次の自発呼吸では何の抵抗もなく呼吸できている、となり、
そうこうしているうちに自発呼吸の回数が増えて、バッグを押す必要もなくなり、
そのまま、SGAを抜去できた・・・
という事が何例か繰り返し起きています。

今の時点では、機序も現象も明確に説明できませんが、
何の体動もなく突然生じ、自発呼吸の出現で解消されるので、
SGAの位置異常でない事だけは確かです。
フェンタ麻酔時代には殆ど経験しなかったことで、レミフェンタ特有の事象です。
気管挿管では、気道内圧が多少高くなっても、
ここまで換気できない事は殆どないので、これはやはり、SGA特有の事象です。
不思議なのは、自発呼吸で大丈夫なのに用手換気はできない事です。
筋硬直でもなければ、単純な声門閉鎖でもない。
声門閉鎖がチェックバルブ的に働いているのか、
それとも、小児の抜管でみられる息こらえのような現象が起きているのか、
もし息こらえなら、それは声門でなのか呼吸筋でなのか?
一度、ファイバースコープで観察しながら覚醒させようと思っています。

私が経験した症例では、やはり、筋弛緩の拮抗直後に起きる事が多かったので、
最近では、カードに記載したように、
 ① 事前にCO2をためて、自発を出しやすくする
 ② レミフェンタを早く切る
 ③ ブリディオンを最後に(できれば自発がでてから)入れる
ようにしています。
②や③は、術式によっては終了直前まで深い鎮痛と筋弛緩を効かせていて無理なこともあります。
実際、私が経験したのは、硬膜外麻酔を入れない、比較的若い患者の婦人科開腹手術でした。
①については、手術終了前に呼吸回数を4回ぐらいにして、自発呼吸を促しています。
これで、若干、発生頻度が減ったように思いますが、これに関しては、今後、検討していくつもりです。

また、肝腎の対処法ですが、
レミフェンタによる声門閉鎖の発生機序は、一般的な喉頭痙攣と同じではない可能性もあり、
ESAの抜管ガイドラインにあるような対処法で良いという保証もありません。
それでも、ツボ押しやプロポはともかく、筋弛緩なら確実に解消できるでしょうから、
参考までに、喉頭痙攣のパニックカードも見直しておきましょう。

忙しい大学を離れ、外勤先で1人でLMA麻酔をかけることが多くなって、体験した事象です。
普段の何気ない麻酔の中にも、まだまだ判らないことが多いという事を実感しました。
明確に説明つかないことを研修カードにするのは抵抗がありましたが、
こんなことも起きるんだという事だけでも、研修医の先生は知っておいて下さい。



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