東京医科大学

麻酔科学分野 麻酔を受けられる患者さまへ

Staff Room

医局カンファランス

(抄)PONV管理アルゴリズム

報告者:塩谷

カテゴリ : 本院 抄読会

Consensus Guidelines for the Management of Postoperative Nausea and Vomiting

Tong J. Gan et al. Anesthesia & Analgesia. 2014 Jan ; 118 (1) : 85 - 113

 

20032007に報告されたA&Aのガイドラインのアップデートです。

本ガイドラインはPONV管理のためのアルゴリズムが示されています。流れとしては

    PONVリスク因子の評価を行う。

    PONV発生のベースラインリスクを減少させる。

    リスクを考慮して、PONV予防のための制吐薬を選択する。

    PONV発生時の薬剤の選択をする。

となっています。

 

①リスク因子の評価についてですが、本ガイドラインではApfelスコアが推奨されています。女性 非喫煙者 PONV既往もしくは乗り物酔い既往 術後オピオイド使用、をそれぞれ1点とし加算していき、合計点でリスクを評価します。スコア0 - 1 では低リスク群(予測発生率10 - 20%)、2では中リスク群(30 - 40%)、3 - 4では高リスク群(50 - 80%)です。これは本邦において適応可能か検証し、概ね発生率は類似していたと報告があり、本邦でも有用であることが示唆されています(臨床麻酔 vol.37-9 / p1357-1366)。

 

 ②ベースラインリスク減少の具体策としては、全身麻酔を避け区域麻酔を選択する、吸入麻酔薬・笑気を避けTIVAで管理する、術中術後のオピオイドの使用量を最小限にする、十分な輸液を行う、などが挙げられています。今まで推奨されていた、ネオスチグミンの使用量を最小限にする、酸素の十分な投与を行う、の2点については今回のガイドラインから除外されています。

 

 ③制吐薬の選択については、本ガイドラインではオンダンセロトンが" gold standard "とされています。主な制吐薬の使用するタイミングと容量は、オンダンセロトンはオペ終了時に4mg i.v、デキサメタゾンは麻酔導入前に4mg i.v、ドロペリドールはオペ終了時に0.625 - 1.25mg i.vです。プリンペランは1Aでは予防効果は無いとされています。

Apfelスコアで低リスクの患者には、特に予防対策は必要なし、中リスクの患者にはTIVAまたはデキサメタゾン+オンダンセロトン、高リスクの患者にはTIVA+デキサメタゾン+オンダンセロトン、が推奨されています。

 

PONV発生時の対策としては、予防投与で使用されていないクラスの薬剤で治療を行うことが推奨されています。ガイドラインで推奨されている予防対策を実施してPONVが発生してしまった場合、低リスク患者には、まずオンダンセロトン、効果がなければドロペリドールとなっています。中・高リスク患者では、まずドロペリドール、効果がなければジメンヒドリナートとなっています。

 

本邦では、保険適応されている薬剤が極端に少なく、このガイドラインをそのまま実施することは困難です。現時点で重要なのは、患者のリスク因子を予測し、必要であると判断した場合は TIVA 神経ブロック併用 オピオイド使用量の減少などを行い、PONVの減少に努めることであると考えます。

一覧へ戻る