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医局カンファランス

パニックカード ver2 Lipid Rescue

報告者:石崎

カテゴリ : 関連病院 勉強会

リクエストを頂いたので、Lipid Rescueのパニックカードを追加しました。
確か去年、S先生が経験して学会で発表していたはずです。人ごとではございませんね。

戸田 パニックカードver2.006.jpg

局麻中毒自体が稀な合併症であるため、エビデンスは症例報告と動物実験ばかりで、実際の臨床における、Lipid Rescueの副作用を含めた長期予後の検討は殆どなされていません。しかし、局麻中毒の心停止は蘇生困難であることから、局麻薬を扱う麻酔科医にとっては、BLS/ACLSに合わせて知っておくべき蘇生法の一つといえます。

アメリカ局所麻酔学会や英国アイルランド麻酔学会からは、それぞれガイドラインが出ています。Lipid Rescueのホームページもあり、トップページから緊急対応マニュアルにアクセスできるようになっています。日本麻酔学会の医薬品ガイドラインでも、脂肪乳剤の項目でLipid Rescueが紹介されています。

Lipid Rescue緊急対応マニュアル


各ガイドラインで似かよった投与方法、投与量が推奨されていますが、持続投与の速度がボーラス投与並であり、あまり厳密に拘る必要はなさそうです。ですので、パニックカードでは、日本人向きに50kg計算したおおよその投与法を記載しておきました。気になる人は、これを鵜呑みにせず、一度、アメリカ局所麻酔学会のチェックリストを覗いてみて下さい。

最大投与量については明確なエビデンスはありません。局麻中毒は蘇生に反応しにくく、エピネフリンの投与量も少ない方が予後が良いようです。また、可能な場合は人工心肺を考慮することとされていますが、人工心肺なんて無理で、エピネフリンも少ない方が良いというなら、脂肪乳剤はいくらでも投与しても構わないと考えたくなりますが、それなりに副作用もありますから、現時点では、各ガイドラインに共通している「最初の30分でmax10ml/kg」という量を意識して、症例ごとに判断することになりそうです。

また、運用方法としては
1.局所麻酔を使用する全ての部署にイントラリピッド500ml×2本を置くこと。
2.イントラリピッドのボトルに、Lipid Rescueの方法を書いた紙を添付しておくこと。
3.イントラリピッドの使用の有無に拘わらず、局麻中毒を報告すること。(英国)
などが提案されていますので、このパニックカードを上手にご活用下さい。

興味深いのは、局所麻酔中毒だけでなく、Ca拮抗薬(ベラパミル)、抗精神病薬(オランザピン)の中毒でも有効だったという症例報告があることです。いずれも脂肪親和性が高い薬剤で、Lipid Sinkと呼ばれる、脂肪乳剤により薬剤が取り込まれて循環血液中から消失するという機序が考えられています。さらに、半減期の長いこれらの薬剤で数時間後に中毒症状が再燃し、再度Lipid Rescueを行ったところ直ちに改善したことが、Lipid Rescueの効果を裏付けています。

この他、局麻中毒における不整脈・心停止対応では使用を避けるべきものがあります。
パニックカードにも記載しておきました。
つい、使ってしまいたくなるものばかりですので、注意して下さい。

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