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医局カンファランス

術前貧血と術後30日予後との関連

報告者:宮下

カテゴリ : 本院 抄読会

今回の抄読会は「Preoperative anaemia and postoperative outcomes in non-cardiac surgery: a retrospective cohort study」Lancet 2011; 378: 1396-407。

術前貧血をテーマにして、術前貧血患者は 術後30日の死亡率は非貧血群と比べて貧血群で42%高く、このリスク増大は軽度貧血で41%、中等度~重度貧血でも44%と、貧血の重症度別に見ても一貫して認められた。

術後の合併症リスクは非貧血群と比べて貧血群で35%高く、このリスク増大は軽度貧血で31%、中等度~重度貧血でも56%と、貧血の重症度別に見ても一貫して認められた。

今後の課題としては、さらなる有効性、安全性を確認する必要があるが、鉄剤や赤血球造血刺激因子製剤などの貧血治療を進め、術前評価で出血が予想される場合においては、血液管理の一環として貧血治療を標準的なケアに含めるべきと感じられた。

資料はスタッフページからDLできます。


補足:敗血症でも輸血した方が予後が良かったとありますが、敗血症は呼吸も循環も不安定になり、酸素デリバリーを維持するために、何よりも輸血が必要となるような病態なのですから、それは当然でしょう。ただ、輸血を必要としない敗血症も多いので、やはり、あまりエビデンスに縛られずに、個々の症例で判断するのが基本です。その意味では、無駄な輸血は予後を悪くしたという結果も頷けます。

母集団の選定、治療のクライテリア、エンドポイントの設定などが難しい分野の研究では、重要なエビデンスが簡単にひっくり返ることがよくあります。無用な輸血で予後を悪くした症例と、必要な輸血で予後が改善した症例を一緒くたに論じれば、いくらでも「敗血症での輸血は予後を改善しない」「むしろ有害」という結果を導き出すことができます。本論文は、過去の多くの報告がそうであった可能性を示唆してくれました。

呼吸と循環の維持に務めつつ、ScvO2が低ければ入れるべきでしょう。(石崎)

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