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医局カンファランス

FiO2と創部感染(肥満患者での検討)

報告者:関根

カテゴリ : 本院 抄読会

今日の抄読会は関根先生。Anesthesiology2011から、吸入酸素濃度が創部感染(SSI:Surgical Site Infection)の発生に及ぼす影響を肥満患者で検討した文献の紹介です。この研究は、高濃度酸素が術後創感染予防に効果があるという報告に対して反論を唱えたPROXI Trial(デンマーク)の、サブグループ解析です。

サブグループ解析ならではの大きなLimitationがあって、肝腎な呼吸管理が肥満患者用になっていません。肥満患者では容易に微小無気肺が生じますが、一方で、高濃度酸素も吸収性無気肺の原因となります。しかし、SpO2>94%を維持するようにリクルートメントするというプロトコールがあるだけで、実際、術中・術後に、高濃度酸素投与群がどれほど高PaO2となっていたかを示すデータがありません。仮説を検証するプロトコールになっておらず、よくこんなのでOlogyに載ったなあというのが、正直な感想です。本家のPROXI Trialのおかげでしょう。

それでも、幾つかの注目すべき点を関根先生が挙げてくれました。それは、本文でなく参考文献にあった吸入酸素濃度と無気肺形成の関係で、スライドの13枚目です。

一般に、麻酔導入時のFiO2は高い方が、無呼吸に対する安全性が増しますが、反対に吸収性無気肺の危険性も増してしまいます。特に肥満患者では、呼吸停止により低酸素も無気肺も生じやすいので、適正なFiO2をどこに設定すべきかが、よく議論の的になります。つぶれてもリクルートメントをかければいいのだから、できるだけ高いFiO2でいいじゃないか、という意見もあります。中等度肥満患者での検討において、FiO2が80%を越えたあたりで、ぐっと無気肺の発生が増えるという報告を根拠に、1つの落としどころとして「FiO2=80%」が支持されることが多いようですが、より強調されるべきなのは、やはり、導入直後のリクルートメントの重要性の方です。肥満患者では、たとえFiO2=50%で管理していても、圧をかけなければP/F比が落ちていきますから、当然と言えば当然ですよね。(石崎)

そんな訳で、関根先生からの今日のTake Home Messageは、
 『肥満患者の投与酸素濃度は80%以下で行おう』

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