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医局カンファランス

慢性期糖尿病の血糖コントロール

報告者:宮下

カテゴリ : 本院 抄読会

 宮下先生が興味深い文献をみつけてきました。慢性期の血糖コントロールにおいて、厳重な血糖管理が心血管系の死亡リスクを増悪させたという報告です。HbA1cを6.5以下にコントロールした群では、HbA1c 7.5前後の群よりも五年以内の臨床的予後が悪く、特にハイリスク症例ではより有意な差が認められたそうです。
 これまでにも、周術期や集中治療の急性期血糖コントロールで同様の報告がありましたが、そこでは、厳重管理のデメリットとしては低血糖が問題とされてきました。この報告がそれらと違う点は、低血糖の発生頻度は両群で変わらず、低血糖が心血管系の死亡を増やすという根拠もないことから、予後を悪化させた別の理由が存在する可能性を示唆していることにあります。
 欧米では数年前より、GLP-1作動薬やDPP-4阻害薬などのインクレチン関連糖尿病治療薬が使用されています。本邦でもようやく発売されるようになり、現在、インクレチン関連治療薬の単独投与もしくは従来のSU合剤との併用療法の有効性が盛んに検討されています。機序の異なる薬剤の相互作用は不明な点も多く、体重減少の有無にも違いが認められるそうですが、殆どの報告は目標HbA1cの達成をアウトカムとして有効性を比較検討しています。そのような中、単にHbA1cだけに注目した管理には思わぬピットフォールが存在すると警鐘を鳴らした貴重な研究といえるでしょう。(石崎)

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