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留学報告

ワシントン Children's National Medical Center留学報告 〜伊藤 真理子 先生〜

留学体験記

 私は2021年6月より、アメリカ・ワシントンDCにあるChildren's National Medical Center橋本鳥居研究室に留学しています。留学してから3年が経ち、現在は研究と子育てを両立させながら日々を送っています。東京医科大学を卒業後、臨床研修医を経て、今年で医局に入局16年目を迎え、プライベートでは16歳、13歳、10歳の3人の子供を育てる母親でもあります。

 留学は私にとって漠然とした夢でしたが、シングルマザーとして家族の支えを受けながら生活を支えていたため、現実的には難しいと諦めていました。しかし、新型コロナ禍の中、医局の先輩から「留学に興味ある?」と声をかけていただき、鈴木亮主任教授や家族と何度も話し合いを重ねました。最終的に両親の「やってみて、どうしても無理なら帰ればいい」という一言が背中を押し、挑戦を決意することができました。今思えば、これは私の人生での大きな決断の1つです。

 留学は生活の基盤を大きく変えるもので、出発の半年以上前から準備を始めました。まず、言語の壁に直面しました。大学受験では得意だった英語も、実際の研究活動では通用せず、手続きに必要なメールを1通書くのに日本語の倍以上の時間がかかりました。また、アメリカでは生活費や研究費を自分で確保しなければならず、グラント申請にも挑戦しましたが、未熟な状態での応募では結果が得られず、当初は貯金を切り崩して生活を始めました。

 渡米後、生活は大きく変わりました。留学開始当時、アメリカではようやくマスクを外す生活が少しずつ解禁され始めた時期でした。研究では、これまでの臨床経験では得られなかった生化学的知識や実験技術を一から学び直す必要がありました。毎朝7時に家を出て夜遅くまで研究室で実験を行い、仕事がおわると子供をアフタースクールに迎えに行き、帰宅後は最低限の家事を済ませ、翌日の準備を進める日々でした。また、定期的に行われる英語でのプレゼンテーションも大きな関門でした。事務手続きの電話対応なども当初は一苦労でした。通勤も日本とは勝手が違い、治安や安全への配慮が欠かせませんでした。プライベートでは子供たちの学校対応や生活のサポートも私の役割でした。特に最初の1年は、苦労したことのほうが多かったです。家族の支えはもちろんのこと、同時期に留学を始めた友人や、東京の友人とのオンラインで話すことが支えになりました。

 渡米して10ヶ月ほど経った頃から次第に英語でのコミュニケーションや仕事に慣れ、ようやく少しずつ光が見えてきました。子供たちも学校でできた友達や先生のサポートを受けながら、現地の生活に順応し、楽しんでいる姿を見ることができ、大きな励みになりました。ラボにはアメリカ人、インド人、台湾人、韓国人など多国籍のメンバーが在籍しており、休憩中にコーヒーを飲みながらおしゃべりする時間が楽しみの1つとなりました。

 私の研究テーマは、歴代の東京医大の医局から留学した先生方のプロジェクトを引き継いだもので、糖尿病母体から生まれた子どもの神経発達に関するものです。特に、妊娠中の糖尿病が児の神経発達に与える影響を解明し、治療の可能性を探ることを目指しています。研究は常に試行錯誤を繰り返す日々ですが、仮説を裏付ける実験結果が得られたときの達成感はひとしおです。そして、渡米から1年ほどたったころ、鳥居先生から延長のお話をいただき、当初2年の予定だった留学期間も、鈴木教授や家族と相談した結果、さらに2年の留学延長を決めました。

 この数年間は本当にあっという間でした。 3人の子供たちは現在、小学校、中学校、高校に通い、それぞれが新しい環境で言葉や文化の壁を乗り越えて成長しています。彼らがここでの生活に順応し、新しい友人を作り、楽しむ姿は私にとって大きな励みとなっています。家族で小旅行を楽しんだり、スポーツ観戦やアメリカ独特の行事に参加したりする時間も増え、それらは大きなご褒美です。

 この留学生活を通じて、仕事・プライベートともに何十年分もの経験を積むことができました。コロナ禍の日本に留まっていたら得られなかった機会でした。語学力や研究能力の向上に加え、何よりも柔軟性と前向きな姿勢の大切さを学びました。困難に直面したときも、周囲のサポートに感謝し、挑戦し続けることで道が開けることを実感しました。また、日本の良さを改めて実感し、日本人が自分たちの強みをもっと自信を持って世界に発信するべきだと感じました。 このような貴重な経験を得られたのは、鈴木亮主任教授をはじめとする医局の先生方のご支援、留学中にご指導いただいた橋本鳥居先生ご夫妻、そして何より家族の理解のおかげです。心から感謝したいと思います。

ラボの仲間と

歓送迎会のラボランチ

ワシントン Children's National Medical Center留学報告 ~石井 慶太朗 先生~

〜人生の夏休み〜

この記事を読んでくださっている方の中には、漠然と留学してみたいと思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか?医師が留学するための一般的な手順としては、大学院を卒業した後、助成金を取得し、自力で様々な研究室に連絡を取って、ようやく留学先が決まるという流れが多いです。一方で、私は恵まれた環境にあり、大学院在学中に声をかけていただきました。このような機会をいただけたことに対して、鈴木教授をはじめ、医局の先輩方に心から感謝しています。

ありきたりですが、まずは簡単な自己紹介から始めたいと思います。私は茨城医療センターで初期研修を修了後、入局3年目(卒後5年目)に社会人大学院生となり、そのタイミングで留学の機会をいただきました。プライベートでは第二子が生まれ、糖尿病専門医および内分泌代謝・糖尿病内科専門医の資格取得が控えていましたが、家族のサポートのおかげで「このチャンスを逃したら次はないだろう」と思い、留学を決意しました。

留学が決まり、早速書類手続きなどを始めましたが、"後から追加書類の提出が求められる"ことは当たり前で、"催促しないと返信が来ない"ことなど、すぐにアメリカと日本の文化の違いを痛感することになりました。留学を甘く考えていた自分を実感し、30歳を過ぎてもなお新しい経験ができたことに驚いています。

さて、タイトルにある「人生の夏休み」という表現ですが、これは初期研修医時代に放射線科の教授から教えていただいた言葉です。当時の私は、単純に楽しい毎日が来るものと思い込んでいました。その言葉を胸に、少し遊び心を持ちながら留学に来たのです。しかし、忘れていたのは「夏休み」には必ず「宿題」があるということです。留学中はもちろん「研究」があります。臨床の経験からは遠い分野での研究は、学生時代の勉強をおろそかにしていた私にとって、少々大変でした。

現在、私はアメリカのワシントンD.C.にあるChildren's National Hospitalの神経科学研究室でお世話になっています。日本人のP.I.(研究室主任)の指導のもと、日々刺激的な研究に取り組んでいます。私が携わっているメインプロジェクトは2つあります。1つ目は、妊娠糖尿病の子どもが自閉症やADHDなどの精神疾患や学習障害を発症しやすいかどうかを調べる研究です。これは、先輩方の研究が基盤となっており、私もその恩恵を受けています。今回は動物実験ではなく、細胞実験を基に新たなシークエンス技術を開発するプロジェクトです。

2つ目は、癌研究室との共同プロジェクトで、iPS細胞を使った研究です。私の担当は小脳オルガノイドの作成で、まさか自分がiPS細胞を使った研究に携わる日が来るとは思ってもいませんでした。この研究の背景には、医療の発達によって癌の5年生存率は大幅に改善されているものの、特定の癌は依然として治療法が進展していないという現実があります。特に小児に発生する脳腫瘍である髄芽腫のうち、悪性度の高いClass Ⅳbは、新薬の薬剤テストが困難なことが課題です。そこで、iPS細胞から分化させた小脳オルガノイドを用い、癌細胞との共培養やウイルスを使った癌細胞情報の導入を試みています。

研究生活は一週間があっという間に過ぎるほど充実していますが、留学のもう一つの醍醐味であるプライベートも非常に充実しています。私が住んでいる地区には日本人コミュニティがあり、日本では出会えないような職業の方々とも仲良くさせていただいています。これも留学の貴重な経験の一つです。また、偶然同じマンションに住んでいるAmerican Universityのウイルス学教授とも親しくなり、大学で授業をさせていただくという貴重な経験もしました。90分の授業は緊張しましたが、良い経験でした。また、週末のロードトリップではニューヨークやフィラデルフィア、カナダなど多くの場所に行く機会がありました。夏には家族と一緒にグランドサークルとイエローストーン国立公園を巡り、アメリカならではの大自然を満喫しました。

現在、円安と物価の上昇により生活は大変ですが、それでも留学に来て本当に良かったと心から思います。そこで、アメリカでの留学生活を少し延長することを医局に相談したところ、快諾していただきました(と勝手に解釈していますが、違っていたらすみません)。このような貴重な機会に恵まれたことに感謝しつつ、残りの留学生活を全力で楽しみたいと思います。長文をお読みいただき、ありがとうございました。

(写真1:ラボメンバーとのランチ)

(写真2:皆既日食)

(写真3:仕事後に参加したバレーリーグのチームメンバー)

(写真4:カラフルな温泉 in イエローストーン)

(写真5:バイソンによる渋滞 in イエローストーン)

ワシントン Children's National Medical Center留学報告 ~菅井 啓自 先生~

詳しくはトピックスに連載しております。下記リンクより~海外留学体験記第一弾、渡米してみて~ ~海外留学体験記第二弾~をご参照ください。

https://team.tokyo-med.ac.jp/tounyo/topics/2019/06/post-9.html

https://team.tokyo-med.ac.jp/tounyo/topics/2019/12/post-10.html

ニューヨーク コロンビア大学留学報告 ~伊藤 禄郎 先生~

平成15年10月27日から平成17年10月15日まで、小田原雅人教授、林徹前教授、第3内科医局員の諸先生方の御厚意で、米国ニューヨークのコロンビア大学に留学する機会を得ました。コロンビア大学では小児科学分子遺伝学部門に所属し、RL Leibel教授の下、2型糖尿病に関する疾患感受性遺伝子の研究に従事いたしました。

皆様の御存知の通り、ニューヨークはアメリカのみならず世界の経済、文化の中心であり、様々な人種を抱える人種のルツボの街です。クリスマスのリンカーンセンターのクリスマスツリー、大晦日のタイムズスクウェアーでのカウントダウンなどは世界的に有名であり、松井秀喜の所属しているNYヤンキースと松井稼頭雄の所属していたNYメッツのMLBのゲーム、ブロードウェーでのミュージカル、メトロポリタンでのオペラやバレー、MoMAやメトロポリタンなどの美術館など観光には事欠かない所です。食事は超のつく高級料理店から屋台のホットドックまで各国料理が揃っており、どこも週末は賑わいをみせています。日本人観光客も数多く訪れ、街中でばったり知り合いに会うことも何回かありました。

コロンビア大学は1780年に創立されたKings Collegeを前身に、世界的な著名人を数多く輩出した総合大学です。文科系の学部はマンハッタンのセントラルパークの北西に位置するモーニングサイドと呼ばれる閑静なエリア(110~115st)にあります。私の留学した医学部はそこからさらに北方のワシントンハイツ(168st)にあります。その中心となるPresbyterian病院と呼ばれる巨大な総合病院は、東京医科大学病院をいくつも足し合わせたもので、現在も建築中・建築予定のビルが控え膨張傾向にあります。古いところではマルコムエックスが救急搬送された病院、最近ではクリントン前大統領が手術を受けた病院と言えば分かりやすいかもしれません。

私の所属した研究室は5年前に新たに竣工されたRuss Berrie Pavilion内にありました。このビルディングは糖尿病専門であり、1階はカンファレンスルーム(毎週木曜日の午前中にこの分野で活躍する研究者を招いてのレクチャーがある)、2階は外来、3~6階は研究室、7階は動物センターとなっています。ボスのLeibel教授はこのビル全体の責任者でもあり、いつも分刻みで、土日関係なく夜遅くまで働いていました。因みにこのビルは個人の寄付で建てられており、このビル同様にスポンサーの名前を冠したビルがいくつも病院内にあります。

Leibel教授は非常に御高名な先生であり、御存知の方も多いかと思います。数多くの業績の中で最大の業績は、ポジショナルクローニングにて肥満に関連するレプチンの発見に寄与されたことです。彼の他の追随を許さない知識、先見性に加え、高潔でかつ家族的な人柄に魅かれて共同研究を希望する研究者が世界中にいます。ミーティングでは他の人の討論を、たとえ的外れであったとしても嫌な顔をせず最後まで聞き、最後に丁寧に論理的に1つずつ的確なアドバイスを各人に与えます。このように書くと非常に堅苦しい方のように思えますが、実際はいつも冗談を言って笑いの中心にいます。私がこのようなボスの研究室に留学できたのは、日本で研究していた膵臓の再生現象、特に膵β細胞の再生で共同研究をしていた井上修二博士の紹介によるものでした。

2型糖尿病は周知の通り、多因子遺伝の関与が想定されています。遺伝的要因、環境的要因は多くの疫学的研究により明らかにされてきましたが、時間がかかり、多大な手間がかかります。マウスをはじめとした動物モデルはゲノム解析の結果からシンテニーが人間との間で成立しているため、動物モデルにおける責任遺伝子を明らかにすることは、人間における疾患感受性遺伝子の解明に役立ちます。Leibel教授は2型糖尿病の疾患感受性遺伝子を同定するため、肥満のモデルマウスであるob/ob(B6 strain)マウスに、耐糖能障害をきたしやすいDBA/2Jを掛け合わせることでコンジェニックマウスを作製していました。私の研究は、これらのマウスの遺伝子型および表現型を検討することから始まりました。ob/ob(B6)マウス単独では一時的に高血糖になることはあっても慢性的な高血糖はきたさないのですが、DBAの形質が導入されることで、膵島の増殖の障害、インスリン分泌不全より糖尿病状態を呈します。つまりB6のホモ接合体(BB)に比し、DBAのホモ接合体(DD)では耐糖能の悪化を認める結果になります。染色体上のどの部位に2型糖尿病との関連が見られるのかをLinkage analysisにて検討を行ったところ、複数の部位にて強いピークが観察されました。特にマウスの第1染色体のセントロメアから86cMの部位は、人間では第1染色体の23cM付近に相当し、人間を対象としたLinkage analysisにて2型糖尿病との関連が指摘されていました。我々はバイオインフォマティクスの手法を用いてマウスの第1染色体の86cM付近に存在する複数の候補遺伝子の検討を行いました。また実際に組織での発現をRT-PCRにて確認し、特異的抗体を作製し免疫染色を施行しました。それらの結果、ある1つの遺伝子はBBの組織に高発現しているのですが、DDでは発現低下が観察されました。DDにおいては膵島面積の減少、細胞増殖マーカーのひとつであるki67陽性細胞数減少なども観察され、有望な疾患感受性候補遺伝子と考えられました。この遺伝子のプロモーター領域にはインスリン応答配列があり、発現が制御されている可能性も考えられました。

コンジェニックマウスの飼育中、突然変異によると考えられる脂肪量減少、相対的な筋肉量増加、脱毛、耐糖能の良好なマウスを認めました。Charles Le Duc博士(Ph.D.)らとそのマウスを継体し、マイクロアレイにて複数の疾患候補遺伝子を認め、ダイレクトシークエンス法にて遺伝子変異を同定しました。この遺伝子変異は950bpにinsertionがあり、本来2000bpの遺伝子が980bpでストップコドンとなるため、遺伝子産物の機能不全をもたらすものと考えられました。

またAnne Marie Brillantes博士(M.D., Ph.D.)とともに1型糖尿病のモデルマウスであるNODマウス、2型糖尿病のモデルマウスであるdb/dbマウスと各々の対照の膵島より、膵島を採取、マイクロアレイにて遺伝子発現プロフィール関する研究も行いました。これらの膨大なデータをErmineJやGeneMAPPなどの解析ソフトを用いて検討を行いました。その結果、いくつかの興味深い遺伝子の存在が浮かび上がりました。

以上の研究成果はNIHグラントよりfundを受けており、学術誌に投稿予定です。

私事ですが、同じ時期に妻もピッツバーグ大学に留学しており、毎日電話で今日はこうだったなどと愚痴を言い合ったり、励ましあったりしていました。約2年間の留学でしたが、このように頑張れたのは、家族の支えがあったからです。また快く送り出していただいた東京医科大学の皆様のおかげであり、またコロンビア大学での仲間の助けに他なりません。最後に貴重な経験をサポートしていただいた東京医科大学同窓会の諸氏に心より御礼を申し上げます。