海外留学体験記

小林 正武(卒後10年目)

留学までの道のり

私は循環動態の診断・管理に魅力を感じ、循環器内科学の道を決め、東京医大循環器内科学教室に入局しました。自然に興味は急性心不全の循環動態へ向かい、さらには慢性期の心不全患者さんを取り巻く社会環境・諸問題などにも取り組んできました。そして、そのような取り組みのなかで、医学者として上記諸問題を客観的に評価することの大切さを常に感じてきました。
同じ疾患・表現型・背景を持つ患者さんが日によって治療成績が異なっては困るし、担当医によって異なるようでは良くない。良医の感覚・経験をデータとして評価できる臨床研究の重要性は理解している反面、そのような研究ができる場を求め、指導医である渡邉雅貴先生の紹介の元、Faiez Zannad先生の研究室に行くことを決めました。

ON

2017年2月より、フランスナンシーのローレンヌ大学へ留学、臨床研究センターでリサーチフェローとして活動しています。フランスには各地に公的研究機関「国立保健医学研究所(INSERM)」があり、ここではローレンヌ大学の循環器病センター内にINSERMが存在し、所属スタッフはINSERMまたは大学病院と契約し国内外問わず様々な心不全関連の臨床研究に従事しています。
この研究センターでは毎日数多くの臨床研究の登録を医師や看護師、検査技師が行いさらに新規の臨床研究を作成・運営させる一方で、ローレンヌ大学単施設の研究から世界規模の有名な研究のデータを基に統計家が中心となって解析を行っています。その中で私達リサーチフェローも、各々データ解析を行い、指導医とともに論文化へ向けて日々試行錯誤をしております。統計解析も基本解析からデータマイニングまで様々で、臨床中心の日々を送っていた私にとっては、日々勉強と同時に非常に刺激的な時間を過ごせています。フランスに来た当初は流れるようなフランス語に圧倒されました。一年半が経ち、今では他のリサーチフェローとは英語で、統計家を中心とした現地スタッフとはフランス語でコミュニケーションをとれるようになりました。中でもフランス語を上達させたことで、同僚の統計家と友達感覚で気軽に質問・議論できるようになったことは、研究を進めていくうえで大きな利点となりました。
さらには他の欧州の国々から来たリサーチフェローとは心不全関連の論文や興味深い統計解析について議論することも多くあります。自分にとって新たな着眼点の発見があり、非常に楽しい時間を過ごせています。指導医とのミーティングやバイオ・インフォマティックチームとのカンファレンスは頻繁にあります。なかでもFaiez Zannad教授とPatrick Rossignol教授とのカンファレンスでは彼らの科学者としての医学へのたゆまない研究姿勢が垣間みれて、私にとって貴重な財産となっています。

OFF

ここナンシーでは、家探しや保険の手続き、病院受診など生活の全てでフランス語が降ってかかって来ます(ちなみに、ここに来て日本人男性に遭遇したことはありません)。当初はかなり苦労しましたが、英語は勿論、フランス語の上達はここでの環境があったからこそであり、今では逆によかったと思っています。 フランス語が上達することによって人脈が拡がり、多くの研究機会を頂けることにつながりました。また上司や同僚、病院以外の友人の家に招待されることも多くなりました。フランスでは外食より各々の家に招待し合うのが主流なのですが、これは極寒の欧州での越冬には欠かせないものとなっています。中でもPatrick教授には妻や娘も含めて家族ぐるみで仲良くさせて頂いています。

私自身はこちらにくるまでは国際学会に参加しても進んで観光をするタイプではありませんでした。しかし、国内旅行感覚で他国に行けることが欧州留学のメリットと聞いておりましたので、いまでは私も休日に家族とフランス国内外に旅行に出かけます。その結果、欧州の多様な文化・風習や歴史さらには政治について深く関心を寄せるようになりました。今フランスにいるからこその経験と考えています。ワインやチーズとともに国内外の方と過ごす時間は自分にとって新たな価値観を与えてくれています。

メッセージ

循環器内科はEBMが最も発展してきた分野ですが、その元となるのは、臨床研究を運営しデータベースを作成する能力や統計を駆使し論文を作成する能力だと思います。
留学前、私は大学病院や在宅で幅広い臨床心不全学を勉強していましたが、現在は主に統計解析と論文作成に特化して修練しております。まだまだ修行の身でありながら、医療者として医学者として心不全学に携わっていると、やはり今後も生涯を通してこの学問の奥深さに頭を悩ましたい、と思っています。心不全患者さんの入院・外来管理から在宅での環境整備や心理サポート、そして新たな事実を臨床医に還元するための論文作成など、やるべきことはたくさんあります。そのような充実した日々を過ごせるのも、多くのお世話になった方々のお陰であると感謝すると同時に、今後も成長し続けるよう日々努力して行きたいと思っています。
当教室の若手の先生や現在入局を検討していただいているレジデントの先生にも是非ご自身の専門分野で国外留学することをおすすめします。きっと、かけがえのない貴重な経験となると思います。

寺澤 無量

ページ上部へ戻る