研究・業績

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研究

当教室にて現在行っている研究に関して概要を説明させていただきます。

1.気分障害における小児期虐待、気質・性格、成人期ライフイベントの関与

 うつ病は遺伝、小児期虐待、気質・性格、成人期ライフイベントの4要因が複雑に関与して発症することが知られています。これまでの研究では、それぞれの要因単独の効果が検討されてきましたが、構造方程式モデリングや階層的重回帰分析による交互作用効果の解析などの統計手法の導入により、複数の要因のうつ病に対する影響を解析することが最近可能となっています。
 最近の我々の一般成人を対象とした研究では、小児期虐待が感情気質に影響を与える効果を介して抑うつ症状を形成していることが明らかになりました。さらに、うつ病、双極性障害患者でも小児期虐待、気質・性格、成人期ライフイベントが発症、症状形成に大きく関与していることが明らかになり、一部の要因は症状の難治化に関与していました。
 以上の心理要因を検討するプロジェクトを広範に進めて多数の業績を発表する予定ですが、さらに血中の神経伝達物質、神経栄養因子などの生物学的マーカーの関与も今後当教室では検討していく計画です。これらの研究成果から、一般成人のメンタルヘルス予防や次世代の気分障害治療開発への応用を目指したいと考えています。

2.精神疾患(統合失調症、気分障害)発症の背景にある生化学的な変化に関する研究

 精神疾患の従来型診断においては、「外因性(身体の疾患が原因で生じている精神症状)であることを否定してからでないと、(統合失調症や気分障害などの)内因性の精神疾患と診断してはいけない」という鉄則がありました。外因性とは、詳しくは脳の器質的変化(頭部外傷,炎症,血管障害,腫瘍など)や、脳以外の身体疾患(感染症,内分泌代謝疾患など)、あるいは中毒性疾患といった器質的な原因によるものを指しますが、すべての身体疾患が否定された上で、内因性精神疾患の診断が行われているわけではありません。そして、実際に統合失調症や気分障害と診断された患者に対して、どの薬剤が効果的であるかがハッキリと分かっているわけではなく、実際に薬剤を投与してみて、その患者にとって効果的な薬剤が見つかるということも少なくありません。
 最近の研究によると、糖代謝異常が精神症状を惹起しているという報告や、各種精神疾患とω3脂肪酸との関係に着目した報告があり、実際、ビタミン補充療法によって精神症状が回復したという報告や、精神症状の回復に伴って生化学的データも回復しているという研究報告も出てきています。
 我々は現在、統合失調症や気分障害と診断されている患者には、これらの身体疾患による精神症状と捉えるべき患者が多数含まれていると考えており、それらを生化学的な視点から明らかにすることにより、適切な身体疾患の治療を行うことによって精神症状の軽減を図る治療開発を目指したいと考えています。

3.気分障害における睡眠障害の関与

 睡眠障害は多くの精神疾患に必発の症状であり、中でもうつ病や双極性障害の病態や臨床経過と睡眠には密接な関係があると指摘されています。うつ病の寛解期の不眠症状の残遺が再発の危険因子となることや、双極性障害の寛解期の概日リズムの乱れがその後の病相の悪化に関連することが報告されています。しかしながら、この分野の臨床研究は世界的にみても十分な検討がなされておらず、未だ多くの課題を抱えています。そこで我々の教室ではうつ病や双極性障害等の気分障害をはじめ、多くの精神疾患と睡眠障害との関連やその治療法に対する臨床研究に取り組んでいます。当大学においては日本ではまだ少ない睡眠学分野の教室があるため、睡眠学分野の研究員と連携しながら精神疾患と睡眠障害の臨床研究を進めていける点が大きな強みです。一般的に精神科分野の研究で行われる質問紙や構造化面接、画像診断に加えて、終夜ポリソムノグラフィやアクチグラフィといった客観的な睡眠評価機器を用いる方法やメラトニンの測定による時間生物的な手法を取り入れた研究を行っています。それにより、これまでの精神科臨床研究で十分に検討がなされていない領域の新規的で独創性の高い研究が可能となっています。
 臨床研究の素晴らしい点は、実臨床で得られた疑問に対して臨床研究を行い、その結果を実臨床や患者さんに直接還元できる点だと思っています。先にも述べましたが当教室では臨床を最重要と考えながらも、臨床を行いながら研究を取り入れていく指導・教育体制を確立させています。臨床経験を十分に積みながら質の高い臨床研究がしたいというような熱意のある方を歓迎しています。