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抄読会 2016/6/20

投稿者 : HP管理者

カテゴリ : お知らせ

本日の抄読会では、認知症患者における抗精神病薬とその使用による死亡リスクを検討した論文が取り上げられました。米国の研究の対象者は65歳以上の認知症患者90786名でデータは後方視的に収集されました。認知症患者における抗精神病薬、バルプロ酸およびバルプロ酸製剤、抗うつ薬使用における、絶対死亡リスクの上昇と有害必要数(NNH)(何人の患者を治療するごとに死亡1例が発生するかを示す指標)を明らかにするため、180日間における死亡リスクおよびNNHの変化を、患者背景を調整したうえで非薬剤治療患者および抗うつ薬使用群とそれぞれの薬物に関する使用量と死亡リスクを比較しました。

解析の結果、非薬剤治療群との比較では、ハロペリドール群では死亡リスクが3.8%、リスペリドン群では3.7%、NNH 27、オランザピン群では増加率2.5%、NNH 40、クエチアピンは2.0%、NNH 50という結果となりました。一方、抗うつ薬使用患者との比較においては、ハロペリドール群では増加率12.3%、NNH 8、クエチアピン群では増加率3.2%、NNH 31という結果となりました。非定型抗精神病薬(オランザピン、クエチアピン、リスペリドン)のグループ全体では、高用量使用群における死亡率が低用量使用群と比較して3.5%高く、死亡リスクと用量反応性の関連が示されました。また、クエチアピンとの直接比較においても、リスペリドン(1.7%)およびオランザピン(1.5%)はいずれも死亡リスクの増加が認められました。本研究の結果から、認知症高齢者における抗精神病薬の使用は用量に伴い増加する可能性が示されました。同様に、オランザピン、クエチアピン、リスペリドンなどの非定型抗精神病薬による治療は、無治療および抗うつ薬の治療と比較して患者の死亡リスクが大きく、用量依存的に死亡リスクが増大することが報告されました。

本論文抄読を受けて、医局では、死亡リスクが増加するという報告があるとしても、薬物を使用しないことは難しく、BPSDやせん妄の症状が強い認知症患者に対して臨床現場でどのように反映するかは難しい点が議論されました。

 

Maust, D. T., et al. Antipsychotics, other psychotropics, and the risk of death in patients with dementia: Number needed to harm. JAMA Psychiatry. 2015 72(5):438-445. 

doi:10.1001/jamapsychiatry.2014.3018.