心臓血管外科

治療と対象疾患

私たちは循環器内科と強力なタッグチームを組み、成人心臓大血管の治療を行うことを専門としています。
その他にも下肢末梢血管の手術やカテーテル治療に加え、下肢血管の再生医療に至るまでバランス良く治療を行っています。

周囲の病院と協力し、院内では他科・他職種と連携しつつ、
ひとりひとりの患者さんに最適な治療を提供することを重要視しています。
合併症を最小限に抑えたより安全な医療を提供するために
術前からの十分な検査とその解析に基づいた手術計画立案に加え、
質の高い手術と術後管理を行うことに尽力しています。

以下に私たちのチームが行っている主な対象疾患と治療について説明します。

低侵襲治療

右小開胸完全内視鏡下心臓手術

大動脈弁疾患、僧帽弁疾患、三尖弁疾患、心房細動、心房中隔欠損、心臓腫瘍に対する手術です。
右小開胸(右胸側方の約4cmの切開)と2箇所のポート創(10mm、5mm)による高精細4K3Dモニターを用いた完全内視鏡下の
下記疾患に対する手術を行っております。
通常の胸骨正中切開に比べ、傷が小さく、重篤な創部感染の回避や手術出血量の減少が期待できます。
人工心肺装置の脱血のために頸静脈と大腿静脈、そして送血のために大腿動脈から6?8mm径のチューブを血管内に挿入します。
手技に関しては、ロボットではなく、術者が直接自身の手を用いて手術用道具を扱う方法を行っております。
「術者の手」を用いることによって組織の硬さや、何かに引っかかっている感触を感じながら手術をすることを重要視しています。
上記疾患のすべての患者さんが完全内視鏡下の良い適応となるわけではなく、
通常の胸骨正中切開の方が安全で良い適応となることもあります。
患者さんの状態に合わせてより最適な治療を行うために、術前の検査を綿密に行っております。

※画像をクリックすると大きな写真でご覧いただけます。

オフポンプ冠動脈バイパス術
左開胸冠動脈バイパス術

人工心肺装置を使用しないオフポンプ冠動脈バイパス (OPCAB)を第一選択としています。
OPCABは人工心肺装置使用による冠動脈バイパスに比べ、脳梗塞や腎障害の回避、出血量の減少が期待できます。
特に手術がハイリスクとなる高齢さんや、多数の併存疾患を有する患者さんに有効です。
通常は胸の中央を切開する胸骨正中切開で行いますが、患者さんの状態によっては、
胸骨切開をせずに左胸の肋骨の間を切開する方法も行っています。(左開胸OPCAB)
冠動脈バイパスに使用する新たな血管 (グラフト)には、主に胸にある内胸動脈と前腕の橈骨(とうこつ)動脈を使います。
橈骨動脈グラフは足の静脈を用いる方法に比べ、長期にわたり詰まりにくいとされています。
橈骨動脈採取後は、腕や手のしびれなどの感覚障害などが出る可能性があるため、通常は利き手ではない腕から採取します。

※画像をクリックすると大きな写真でご覧いただけます。

カテーテル大動脈弁置換術 (TAVI)

2020年よりTAVIを開始しております。
大動脈弁狭窄症がTAVIの適応になります。
外科的大動脈弁置換術に比べ、心停止を必要とせず体への負担は非常に低くなります。
大腿動脈からカテーテルを挿入していく大腿動脈アプローチが最もダメージが低く、第一選択となりますが、血管の性状が良くない場合には左開胸を行う心尖部アプローチや右開胸を行う上行大動脈アプローチ、鎖骨周辺部分を切開する鎖骨下動脈アプローチを行います。
すべての患者さんがTAVIの適応となるわけではなく、状態に合わせてTAVIあるいは外科的大動脈弁置換術を選択します。

ステントグラフト内挿術

東京医科大学病院は1995年より他に先駆けて大動脈瘤に対する低侵襲血管内治療であるステントグラフト内挿術(TEVAR、EVAR)を臨床応用し実績をあげました。
現在までの長年にわたる豊富な経験により培われたノウハウを活かした、質の高い治療を提供するように心がけています。

緊急および
ハイリスク疾患に対する治療

大動脈解離、破裂に対する手術
心筋梗塞機械的合併症に対する手術
透析患者さんに対する心大血管手術
心大血管の複合手術、再手術
心大血管複合疾患に対する段階的治療
血友病合併心大血管疾患に対する手術

東京都CCUネットワーク、急性大動脈スーパーネットワークの重点施設として急性大動脈解離や大動脈瘤破裂、急性心筋梗塞やこれに伴う合併症に対して、CCU、ICU、救命救急センター、手術室と連携して24時間365日体制で緊急手術に対応しています。

※画像をクリックすると大きな写真でご覧いただけます。

急性心筋梗塞機械的合併症に対する手術に関しては、
第169回市民公開講座を参考にしてください

透析患者さんに対する心臓大血管手術はハイリスクですが、当院では腎臓内科を中心とした透析チームによるフレキシブルな対応が可能であり、患者さんの状態に応じた透析を遂行することにより非常に良い手術成績を収めております。

心大血管の複合手術や再手術においても、質の高い手術を行い、他科および他職種を含むチーム医療により良好な成績を収めています。
ハイリスク患者さんの心大血管複合疾患に対しては、低侵襲治療を組み合わせながら段階的に治療を行うことで、治療リスクを分散・軽減する方法を第一選択としております。

まずは
約4週間後

血友病患者さんの心大血管手術は今後増加していくと考えられています。
当科では臨床検査医学科とチームを組み、周術期凝固因子補充プロトコールを用いながら積極的に心大血管手術を行っております。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症
(CTEPH)に対する治療

当院は難病であるCTEPH治療における手術治療とカテーテル治療、薬物治療の3つの治療を行うことができる全国でも数少ない屈指の専門施設であり、東日本を中心に患者さんが紹介されてきます。
手術治療 (肺動脈内膜摘除術、PEA)には人工心肺装置を用いて、全身を18度まで冷却させた後に、循環停止という全身の血流を停止させるという特殊な手技が必要です。
また内膜摘除という手技も特殊であることから、この手術治療には習熟したチームの力が必要です。
また、手術治療のみでこの病気のすべての患者さんをより良い状態にすることは困難です。
そのため、手術だけではなく、カテーテル治療 (BPA)と薬物治療をシームレスに行うことができる体制がCTEPH治療には必須と考えております。

※画像をクリックすると大きな写真でご覧いただけます。

第164回東京医科大学病院市民公開講座
『慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)に対するコンビネーション治療』

基部拡大を伴う
大動脈弁閉鎖不全に対する
自己弁温存基部置換術

この疾患に関しては、できる限り自己の大動脈弁を温存して大動脈基部を修復する手術を行っております。
特に若い患者さんにとっては有益な治療方法です。

末梢血管に対する治療

末梢血管バイパス
カテーテル治療
重症下肢虚血に対する再生医療

主に腹部大動脈より末梢の血管である腸骨動脈や大腿動脈、下肢動脈の瘤や狭窄・閉塞病変の治療を行っております。
カテーテル治療が適応とならない場合には、血栓内膜摘除術やバイパス手術を施行しています。
従来治療の効果がない重症下肢虚血に対しては、再生治療を行っております。