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近年、外科領域において、内視鏡手術が急速に普及している。脳神経外科疾患においても、従来、顕微鏡下あるいは肉眼下に行っていた手術において、内視鏡手術が発展、普及しつつある。
内視鏡手術は、従来、管腔臓器(気管、消化管、膀胱など)や胸腔、腹腔など空間の中で手技がなされる。脳神経外科では、空間の確保の点で普及が遅れてきた。しかしながら、水頭症の際の大きく拡大した脳室(髄液を産生する脳内の部屋。側脳室、第三脳室、第四脳室がある。)、嚢胞性疾患における嚢胞内の空間などを利用して、脳神経外科でも内視鏡治療が発展途上にある。
その一番の利点は、他の内視鏡手術と同様に低侵襲性である。具体的には、下記が挙げられる。
1. | 開頭手術(皮膚を大きく切開し、頭蓋骨を一塊として外して行う手術。病変の部位の大きさなどに応じてその大きさは様々。)を必要とした疾患に対して、穿頭手術(4cm程度の皮膚切開と5円玉程度の骨切除にて行う手術)で治療が可能となった。 |
2. | 水頭症に対して標準的治療である脳室腹腔シャント術では、シャントシステムである器械を体内に留置する必要があった。しかし、疾患を適切に選択することにより、シャントシステムを体内におくことなく、脳の中にバイパスを作ることで水頭症を治療できるようになった。 |
3. | 肉眼、顕微鏡では観察が困難な術野を、内視鏡を用いることで鮮明な脳内の観察が可能となった。 |
下記のような疾患を対象とし、内視鏡手術が行われる。しかし、神経内視鏡手術は、発展段階の治療方法であり、その利点と欠点を十分に把握することが大切であり、症例の適切な選択と症例の蓄積・トレーニングが必要である。
同じ病気でも患者さんごとに、適した治療方法は異なる。傷の大小だけが、侵襲性の大小では無いことも、十分に理解していることが重要である。
<内視鏡手術・内視鏡下手術の対象>
●水頭症
非交通性水頭症(閉塞性水頭症)、中脳水道狭窄症、脳腫瘍に併発した水頭症、脳室腹腔シャント術からの離脱など
●頭蓋内嚢胞性疾患
くも膜嚢胞(中頭蓋窩、鞍上部、側脳室,四丘体部など)、コロイド嚢胞、症候性透明中隔嚢胞、症候性松果体部嚢胞など
●脳腫瘍(経脳室的アプローチ)
グリオーマ(視床、中脳、脳室内など)、中枢神経系悪性リンパ腫、松果体部腫瘍、胚細胞腫瘍、嚢胞性頭蓋咽頭腫など
●脳腫瘍(経脳実質的アプローチ)
中枢神経系悪性リンパ腫、転移性脳腫瘍、悪性グリオーマなど
●下垂体腫瘍(経鼻的アプローチ)
下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫、ラトケ嚢胞など − 間脳下垂体治療部門参照
●脳出血
被殻出血、脳室内出血、皮質下出血、小脳出血など
<内視鏡支援顕微鏡手術の対象>
●未破裂または破裂脳動脈瘤(特に内頚動脈瘤)
●顔面けいれん、三叉神経痛
●聴神経鞘腫
●トルコ鞍近傍腫瘍(頭蓋咽頭腫、髄膜腫など)
<第三脳室開窓術>
正常では、脳室内で産生された髄液は、中脳水道、第4脳室を経て、脳表、脊髄表面を循環する。何らかの原因により、髄液の通り道が閉塞、途絶して髄液の循環障害が起こり、水頭症に至る。そのため、第三脳室底に窓を開けることにより、脳の中にバイパス、近道ができ、貯まった髄液が、第三脳室から脳表へ直接流れることができる。
前頭部に3 - 4cm大の皮膚切開、5円玉程度の穴を設ける。側脳室から第三脳室へ内視鏡をすすめ、第三脳室底に5mm大の穴を造設するのが一般的。
対象 - 水頭症
<嚢胞開窓術>
頭蓋内嚢胞性疾患の内、嚢胞を全摘出する必要のない症例に対して行われる。嚢胞の部位にて、進入部位は様々。
比較的頻度の高い、中頭蓋窩くも膜嚢胞の場合、病側側頭部に3 - 4cm大の皮膚切開、5煙玉程度の穿頭を設ける。嚢胞内へ直接進入し、嚢胞壁内側、内頚動脈や動眼神経の周囲に開窓を行う。脳幹前面の橋前槽との交通を十分につけることで、嚢胞の縮小を得る。縮小の程度は様々で、完全に消失することは少ない。
<腫瘍生検術あるいは腫瘍摘出術>
脳室内あるいは脳室近傍は、脳腫瘍発生の好発部位の一つである。開頭手術あるいは定位的手術にて治療が行われている。しかしながら、脳深部にあるために全摘出するには侵襲が高かったり、全摘出する必要がない腫瘍があったりする。このような腫瘍に対して、内視鏡手術が有用である。加えて、脳室内あるいは脳室近傍に発生する腫瘍は、水頭症を合併することが多くい。そのため、腫瘍に対する摘出術と同時に、前述の水頭症に対する内視鏡手術を行い、水頭症を制御することが一度の手術にて可能である。
くも膜嚢胞(中頭蓋窩、6歳男児)
嚢胞開窓術

左図 術前 左中頭蓋窩に巨大なくも膜嚢胞を認める(→)
右図 術後3年 嚢胞はほぼ消失し,周囲の正常構造物の圧迫が解除されている
脳室腹腔シャント不全に伴うシャントからの離脱(22歳、女性)
第三脳室開窓術

左図 外来通院中 小児期に中脳水道狭窄症にてシャント術が施行
中央図 シャント不全 突然の頭痛、嘔吐にて救急搬送。シャント不全。
右図 術後 内視鏡による第三脳室開窓術により、水頭症の改善、シャントからの離脱に成功