脳血管内治療

脳血管内治療

脳血管内治療とは?

 当院では頭蓋骨を切り開く「開頭手術」とともに、近年飛躍的に発展してきた体にメスを入れずに血管の中から治療する「脳血管内治療」も積極的に行っていく体制が整っております。
 脳血管内治療は「カテーテル」と呼ばれる直径0.5-3mmの細い管を患者さんの足の付け根や肘から血管に挿入した後、大動脈を経由して頚部や脳の血管に誘導し、薬剤や後述する「コイル」や「ステント」などを用いて治療を行います。皮膚や頭蓋骨を切らないため、身体への負担が少ないのが「脳血管内治療」の最大の利点です。
 日本脳神経血管内治療学会では、脳神経血管内治療の進歩とその治療水準の向上をはかるため、認定専門医制度を導入しています。当院には学会認定指導医(橋本、渡辺)、専門医(田中)が対応し、脳動脈瘤、頸動脈狭窄、脳動静脈奇形、脳腫瘍、急性脳動脈閉塞および脳動脈狭窄などの疾患に対する脳血管内治療に積極的に取り組んでいます。血管内治療についてのご相談は外来でも対応しておりますので、気軽に声をおかけください。

脳血管内治療の対象となる主な疾患

脳血管内治療の対象となるのは以下のような疾患になります。
 1.頸動脈狭窄症
 2.くも膜下出血(破裂脳動脈瘤)
 3.未破裂脳動脈瘤
 4.頭蓋内脳血管狭窄
 5.脳動静脈奇形
 6.硬膜動静脈瘻
 7.脳腫瘍

診療担当スタッフ

 橋本孝朗 平成4年卒  日本脳神経血管内治療専門医、指導医
 渡辺大介 平成14年卒 日本脳神経血管内治療専門医、指導医
 田中悠二郎 平成19年卒 日本脳神経血管内治療専門医

症例相談・連絡先

受診希望のかたは、初診受付の上、脳神経外科外来を受診して下さい。下記外来担当者の曜日を受診すると、よりスムーズに治療計画を立てることができます。

 火曜日午前外来(田中)、水曜日午前外来(橋本)、金曜日午前外来(渡辺)

または、気軽に下記までご連絡ください。可能な限り早急にお返事を差し上げます。
Email : n-surg@tokyo-med.ac.jp

脳血管撮影装置

Artis zeego(SIEMENS)
ロボットの多軸駆動に着想を得た、多軸血管撮影装置です。自由なアイソセンサー(回転中心)をはじめ、多彩なポジショニングを8軸関節の回転機構新型アームが実現します。全身のインターベンションはもちろん、ハイブリッド手術室へも新しいワークフローを提供します。

特徴
12inch × 15inch長方形フルフィールドFD搭載
8軸関節Cアームによる高い柔軟性
多彩なワーキング/パーキングポジション
Large Volume syngo DynaCT

>Imaging Excellence - 優れた画質
長方形フルフィールドFDは、コンパクトかつ優れたアクセス性を発揮。もちろん2kデータサンプリングにより、微細な血管もクリアに観察できる高精細画像を提供します。

>Ease of Use - 使い易さ
F.I.S. -Flexible Isocenter Systemが、自由なアームポジショニングを実現し、術者主体のインターベンション環境を提供。さらに最大47cmの視野を実現したLarge Volume syngo DynaCTも使用可能です。

>CARE - 最大限の被爆低減
シーメンスが誇る、様々な被爆低減技術を複合的に機能させて、画像クオリティはそのままに画期的な低線量化を実現しました。

>Connectivity - 高い接続性
装置本体だけでなく、装置に関わる全ての機器・情報をトータルで考え、シームレスなデータフローを提供します。

脳血管内治療の実際...

●未破裂脳動脈瘤に対する脳動脈瘤コイル塞栓術

未破裂脳動脈瘤の自然歴(我が国では年間破裂率1-2%程度)
 欧米61施設での前向き観察研究であるISUIA(international study of unruptured intracranial aneurysm) ではくも膜下出血の既往のない7mm以下の動脈瘤の5年間の破裂率はA群(内頸動脈、前交通動脈、中大脳動脈瘤)では0%、P群(椎骨脳底動脈系、内頸動脈-後交通動脈分岐部瘤)では2.5%でした。また瘤の大きさに比例して破裂率は上昇し7-12mmの大きさではA群で2.6%、P群で14.5%であり13-24mmになると破裂率はA群で40%、P群で50%でした。しかし、7-12mmの動脈瘤の年間破裂率が0.5%という結果は過去の報告と比較して非常に低い値であります。我が国での未破裂動脈瘤に対する前向き調査(UCAS Japan: Unruptured cerebral aneurysm study Japan)の中間報告では年間破裂率は1%程度であり、破裂に関する因子として動脈瘤の部位と大きさが重要であると報告されています。また、我が国より報告された未破裂瘤の破裂率に関する13研究(922例)のレビューから年間破裂率は2.7%であり、10mm以上、後頭蓋窩、症候性の瘤で破裂率が上昇するとしています。さらに我が国の13施設で新たに診断された5mm以下の動脈瘤を全例(380例)経過観察する前向き研究(SUAVe Study: Small Unruptured Aneurysm Verification Study)を行い、5mm以下の瘤の破裂率は年間0.8%であり多発瘤、女性、70歳以上、前交通動脈瘤、脳底動脈瘤は破裂や瘤の増大の可能性が高いと報告しています。

手術適応
 2008年に改訂された脳ドックガイドラインでは、余命が10-15年以上あると考えられる症例で瘤の大きさが5-7mm以上(前記以外でも症候性瘤、後方循環、前交通動脈または内頸動脈後交通動脈瘤、ドーム/ネックアスペクト比が大きい、不整形、blebを有するなどの形態学的特徴をもつ)の場合は治療を検討するとされています。手術の方法(開頭クリッピングか脳動脈瘤コイル塞栓術か)については、患者背景や瘤の部位や大きさ、術者の経験や治療成績などを勘案して検討すべきです。安全で長期に良好な治療成績が望めると判断された場合、脳動脈瘤コイル塞栓術の適応としています。

術前検査項目(全身状態の評価、頭部MRI、脳血管撮影)
 全身状態の評価は必ず行い、アクセスルートの蛇行や狭窄の有無、動脈瘤ネックやドームの大きさ、ドームの形態、親動脈の長軸とドームの長軸の角度などを確認します。特に瘤と親動脈の形態の認識には3D画像は非常に有用です。

手術手技

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デバイス

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●頸部内頸動脈狭窄症に対する頚動脈ステント留置術(CAS)

CASに関する臨床試験

 >CASに関する登録研究

 

1.

Global Carotid Artery Stent Registry
1997-2002年における11243症例12392回のCASを調査した報告です。手技的成功が98.9%、30日目のイベントが一過性脳虚血発作(TIA)3.1%、minor stroke 2.1%、major stroke 1.2% death 0.6%と初期成績としては良好でした。3年後の再狭窄率および神経イベントは2.4%、1.7%でした。

2.

JCAS(Japan Carotid Atherosclerosis Study)
本邦における50%以上の頚動脈狭窄症の前向き登録研究です。症候性502例、無症候性511例の計1013例が登録されました。頚動脈内膜剥離術(CEA)は433例、CASは317例に施行され、その他は内科的治療を選択されました。Morbidity/mortalityはCEA 3.2%、CAS 3.5%と低率かつ同等でした。598例の追跡調査(平均期間315日)で再狭窄はCEA: 3.2%、CAS: 2.9%であり、同側のstrokeはCEA: 0.8%、CAS: 0.5%であったが、内科的治療群では3.8%と高率でした。

 >CASとCEAとのランダム化試験

 

1.

SAPPHIRE(Stent and Angioplasty with Patients at high Risk for Endarterectomy)trial
CEA高リスク群におけるembolic protection device(EPD)を用いたCASとCEAとのランダム化比較試験(RCT)です。対象は狭窄率50%以上の症候性病変、80%以上の無症候性病変で、かつ1つ以上の高リスク条件を満たす症例が登録され334例がランダム化されました。CASの手技的成功は95.6%で得られ、30日以内の心筋梗塞/脳卒中/死亡はCASで4.8%、CEAで9.8%でした。初期end point(30日以内の心筋梗塞/脳卒中/死亡と31日目~1年目までの神経性死亡/同側脳卒中)はCASで12.2%、CEAで20.1%でした。3年間のstroke、血管再開通治療もほぼ同等でした。

2.

CREST(Carotid Revascularization Endarterectomy vs. Stenting Trial)
狭窄率50%以上の症候性病変、60%以上の無症候性病変を有する2520例(症候性53%、無症候性47%)が対象です。初期end point(30日までの心筋梗塞/脳卒中/死亡および4年目までの同側脳卒中)はCASで7.2%、CEAで6.8%であり、評価は同等でした。術後脳卒中に関してCEAとCASの間で差が認められませんでした・周術期の心筋梗塞はCAS: 1.1%、CEA: 2.3%で、脳神経麻痺はCAS: 0.3%、CEA: 4.8%とCEAで有意に多い結果でした。患者の年齢を70歳未満と以上に分けると前者ではCASが後者ではCEAの方が有意に治療成績において優れている事が示されました。

手術適応

外科的治療がハイリスクな狭窄率50%以上の症候性病変または70%以上の無症候性病変を有する頚動脈狭窄症が頚動脈ステント留置術の適応と考えられています。

術前検査項目(全身状態の評価、頚動脈超音波検査、頸部~膝窩3DCTA、頸部MRA、頭部MRI/A、脳血流シンチ、脳血管撮影)

下記の検査項目を施行し多角的に評価することにより、安全で確実な頚動脈ステント留置術の方法を検討します。

 

>頚動脈超音波検査
検査法です。CTAやMRAを併用することで診断率は90%まで向上します。プラークの質的評価が可能です。

>CTA、MRA
アクセスルートの血管形態を把握するために非常に有用です。プラークの質的評価も可能です。

>脳血管撮影
正確な狭窄度を測定するとともに、アクセスルートの血管形態、さらには側副血行の発達や他の脳血管障害の合併(脳動脈瘤、脳動静脈奇形、もやもや病などの出血性疾患や対側内頸動脈、椎骨動脈、頭蓋内血管の狭窄や閉塞)を確認します。

>核医学検査(脳血流シンチ)
術後の過環流症候群の予知に有用であり、術後の管理方法を検討します。

>心機能評価(心臓超音波検査、核医学検査など)
大動脈弁狭窄症や未治療冠動脈多枝病変はCASに伴う徐脈/低血圧により病態が悪化することがあり、術前評価として必須項目です。

手術手技

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デバイス

   

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●複視、目の充血で発症した硬膜動静脈瘻に対する塞栓術

【硬膜動静脈瘻】とは?
硬膜動静脈瘻は脳を包む膜にできる異常血管で、耳鳴りや眼症状(充血、むくみ、2つに見える)で発症し、悪化すると脳出血、てんかん発作、痴呆症、意識障害などを生じます。症状がある場合や無くても脳出血を生じる可能性がある場合は治療すべきです。血管内治療が適応となりますが、安全で有効な治療には、高度な神経放射線学的知識と血管内治療の技術が必要で、経験の多い専門医による治療が望ましいと思います。

硬膜動静脈瘻(左△)に対して、コイル塞栓術を施行し(中)、閉塞した(右)。

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診療実績

 東京医科大学病院/関連施設 診療実績 (2015年1月23日現在 医局調べ)

疾患名 症例数
2014年 2013年 2012年
脳動脈瘤コイル塞栓術(破裂/未破裂) 117(52/65) 68(32/36) 70(29/41)
頸部内頸動脈狭窄症 65 40 33
その他の血行再建術 52 31 12
硬膜動静脈瘻 26 15 8
脳・脊髄動静脈奇形 2 6 2
脳腫瘍 46 21 25
その他 32 27 29
合 計 340 208 179


外来診療担当表

東京医科大学病院
 火曜日午前 脳血管内治療外来(担当:田中)
 水曜日午前 脳血管内治療外来(担当:橋本)
 金曜日午前 脳血管内治療外来(担当:渡辺)

厚生中央病院
 毎月第二土曜日午前 脳血管内治療外来(担当:渡辺)

藤枝市立総合病院
 毎週水曜日午前 脳血管内治療外来(担当:渡辺)


脳血管内治療研修希望の方へ(脳神経外科医、脳神経内科医、放射線科医、救命救急医)

 当施設では豊富な症例と最新の機器など教育環境が揃っており、充実した脳血管内治療研修を受けて頂けます。また、日本脳神経血管内治療指導医および専門医がチームを編成し脳血管内治療に専従しています。
 脳血管撮影検査は年間300件ほどあり、まずはこの研修から受けて頂いています。さらに実際の脳血管内治療症例に関しても助手として始めて頂き、実力に合わせて術者として治療に参加いただいています。また、脳血管内治療症例検討会(医師、放射線技師、放射線看護師合同)、脳神経外科術前カンファレンス、脳神経外科・救命救急合同カンファレンス、抄読会などの週間予定も充実しています。
 脳神経血管内治療専門医に興味のある方は出身大学や所属科、経験年数は問いませんので、御相談ください。

脳血管内治療トレーニング風景

脳血管内治療医の独り言(ブログ)