留学帰朝報告
2025.02.24 19:54
声の主 : 羽鳥綾乃

カテゴリ : 本院
2023年5月から2024年12月まで,アメリカ合衆国,コネチカット大学University of Connecticut Health Center (UCONN Health Center)のpostdoctoral fellowとして基礎研究留学をさせていただきましたので,帰朝のご報告をさせていただきます。
留学先のI-Ping Chen 研究室は,当科の藤居泰行先生が以前留学されていた研究室で,私が2022年に大学院生が応募できる日本学術振興会の"若手研究者海外挑戦プログラム"に採択された際に,快く受け入れ先になってくださり,2022年5月〜2022年11月までstudent intern として半年間勉強させていただいた研究室です.上記の期間中に,この度のpostdoctoral fellowのお話をいただき,博士課程修了後に再び留学するという運びとなりました.
コネチカットはアメリカ合衆国の東海岸に位置する田舎町で,熊が日常的に出没するくらい自然豊かで治安の良い地区でした.渡米当初,初の海外暮らし&高3で車の免許を取って以来運転したことがなかった私にとっては,生活に馴染めるのかとても不安でしたが,1年を通して過ごしやすい気候,多国籍の人に優しい住民たち,田舎だからこその深い日本人ネットワーク,研究室の仲間に助けられ,研究も私生活も充実した留学生活となりました.
UCONN Health Centerは,コネチカット州の中核を担う大学病院というだけでなく,世界的にも骨代謝研究が盛んな研究機関の一つとして周知されており,米国骨代謝学会創設者のRaisz博士をはじめ,これまで多くの骨代謝研究の第一人者が所属しています.
Chen 研究室は,Endodontics, Center for Regenerative Medicine and Skeletal Development の2つの研究グループに所属しており,骨系統疾患をはじめとする多岐に渡る研究分野に精通した2人の教授を中心に研究を行なっておりました.私の留学期間中の研究テーマは,顎顔面領域に病変を発症する遺伝性骨系統疾患である頭蓋骨端管異形成症(CMD)とチェルビズム(CBM)の病態メカニズムの解明や治療を目的とした研究でした.両疾患とも希少疾患で,今まで馴染みのないものでしたが,それぞれ異なる機序で骨代謝異常を来す疾患であり,single-cell RNA-seq解析を用いた1細胞レベルでの現象の解析や,疾患モデルマウスを用いたin vivoによる治療法の検証,メタボロミクス解析を用いたバイオマーカーの探索など,数多くの実験技術や解析手法,骨代謝に関する知見を得ることができたと思っております。留学期間中様々な研究を任せてくれたChen教授に良い報告ができるよう,留学で得たものを今後の研究に活かしていきたいです.
また,留学期間中,米国骨代謝学会(ASBMR)でのポスター発表や,100人規模の研究者が参加する研究室合同ミーティング,ポスドクのための研究発表会など,色々な形で英語での研究発表の機会をいただきました.鋭い質疑応答に上手く回答できず悔しい思いをしたことも多々ありましたが、毎度活発な意見交換や討議ができ,大変刺激的で貴重な経験ができたと思っております.
多国籍の研究者が在籍する環境で感じたのは,みんな研究が大好きで真摯に研究と向き合っていて,日々"クエスチョン"を持ち,探求心を絶やさないことで,様々な分野の人たちとの熱いディスカッションが生まれ,自身の研究の視野・可能性を広げていっているということでした.どうしても日本人という国民性は,簡単な質問をすることに躊躇する場面や,批判的な意見を避ける傾向があると思いますが,決して他を蹴落とす目的ではなく,新たな観点を得るために良質なディスカッションをすることは,研究の世界に限らず,日本人も模倣するべき点だなと考えさせられました.一方で,日本人として今まで当たり前に行なってきた仕事への取り組み方や姿勢を継続しただけで,真面目・実直・丁寧・責任感の強さとして捉えられ,評価や信頼を得ることにつながったのも事実でした.実際に,アジア出身の中でも日本人というだけでいい待遇を得られるという機会は多々ありました.これも,日本人のイメージや文化を作ってくれた先人の方々のおかげであり,日本という恵まれた国で生まれ,これまで何不自由ない生活を送れてきたことに感謝するきっかけとなりました.また新たなことへの挑戦のつもりが,留学期間を通じて,自分という人間の長所や短所を見つめ直す良い期間となりました.間違いなく私の人生を豊かにしてくれた,必要不可欠な期間であったと胸を張って言えます.
コネチカットという,アメリカでも決して交通の便が良くないへき地まで足を運んでくださった近津教授をはじめ,日本からも現地でもいつも応援し支えてくださった医局員の先生方,日本から待ってますと連絡をくれた可愛い後輩達,私の挑戦を全力で支えてくれた家族に,この場をお借りして心から感謝を申し上げたいと思います。
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