医局員の声

留学帰朝報告

声の主 : 河野通秀

カテゴリ :

留学帰朝報告

〜Department of Cranio-Maxillofacial surgery, BernUniversity Hospital, Switzerland〜

 

 私は、2018年12月から2020年3月まで、スイスのベルン大学病院にClinical and Scientific fellow として臨床研究留学をさせて頂きましたので、その詳細を報告させて頂きます。

 私が研鑽を積ませていただいた、ベルン大学はスイスの首都であるベルン市にあり、ドイツ語をメインに使用していました。Inselspitalとは、日本語に訳すと島病院となり、その名は1354年にAnna Seilerが創設した感染隔離病院に由来しているそうです。病院としては、病床数約1000床で最新の医療設備が揃い、高度医療サービスを提供できるハイレベルな施設でした。病院の中では、ドイツ語、フランス語、英語が飛び交っていて、スタッフも大体の方がマルチリンガルで、人に応じて使用言語を変えているのには、驚かされました。

 ベルン大学頭蓋顎顔面外科学講座は、頭蓋から顎顔面領域の骨疾患治療に特化した診療科です。ベルン州ならびに周辺の州において、唯一の頭蓋顎顔面外科ということで、人口比率では1科で250万人をカバーしており、年間手術件数も約1300件と日本とは比べものにならないくらいの手術症例数でした。その手術の約8割が頭蓋顎顔面外傷関連の手術で、osteosynthesisを必要とする症例が大半で、Depuy Synthes社やMedartis社などの、市場投入前のprototypeのプレートを扱っていました。また研究面では、Geistlich社などの企業と提携したtranslational researchを重視しており、人工骨材量や膜材料の研究に尽力していました。私の研修内容としては、主任教授である飯塚建行先生に御指導いただき、323例の定時ならびに緊急手術と週一回の外来診療に参加させて頂きました。特に印象深かったのは、①Patient's specific implant (PSI)、3-D grid structure plateといった骨接合におけるHardwear関連と、②外科治療を主体としたMRONJの治療戦略です。①に関しては、Medartis社の2つの新形態のプレートに関する後ろ向き臨床研究を担当させて頂くことができました。MRONJの治療方針に関しては、2006年より飯塚教授がスイス政府から依頼を受けて調査を行い、一貫して休薬を行わずに全てのステージにおいて外科治療を主とする独自の治療戦略を展開していました。その治療成績は90%以上の症例を完全治癒させることが可能であり、約1年半にわたり外来ならびに手術に参加させて頂くことで、術前・手術・術後マネージメントと治療コンセプトを一貫して学ぶことができました。研究面では、①Platelet Rich Fibrin (PRF)におけるGrowth factor溶出量に関する研究、②抗RANKL抗体投与マウスを用いたMRONJ発症関連因子に関する研究を担当させて頂き、いずれの研究においても新たな知見を得ることができました。臨床面・研究面共に、非常に刺激的で充実していました。

 私生活としては、自分の中では今まで映画の世界であったヨーロッパの街で生活することは、非常に新鮮でした。私が住んでいたのは、世界遺産であるベルン旧市街内で、趣のある石畳の道路や重厚な石造りの建造物に、教会の鐘の音が聞こえてくるといった、まさに映画でみるようなロケーションでした。スイスは、四季の表情が豊かでそれにあわせて、夏はアーレ川の河原の公園で日向ぼっこをしたり、夏山をハイキングしたり、冬は毎週のように日本でも有名なJungfrau regionに電車に揺られて趣味のスノーボードに行ったりと、プライベートと仕事、メリハリのある充実した時間を過ごすことができました。また、スイスはヨーロッパのほぼ中央に位置していることから、ほとんどの国がチューリッヒ空港から2時間圏内で、シェンゲン協定加盟国ならパスポートチェックもなく、ほぼ日本の国内旅行感覚で旅をすることが出来ました。イタリア ローマで開催されたIAOOに参加したり、イギリス GlasgowQueen Elizabeth University HospitalMaxillofacial surgeryに手術見学に行ったり,プライベートではチェコ、オーストリア、フィンランドを旅したりと、日本からではとても考えられないほど軽いフットワークで行動できました。

 海外留学をさせて頂き、自分が15年間東京医科大学で学んできた技術と知識が、今までハードルが高いと思っていたヨーロッパの口腔外科の中でも、十分通用することを実感しました。例え国や人種や言語が違っても、治療のゴールは皆一緒で日々研鑽を積んでいるという、当たり前のことを意識できるようになったことは、大きな成果だと考えます。また、自分の中で一番変われたと思うのは、自分が日本人であることを強く意識し、またそれを誇りに思うようになったことです。Globalismが進む現代において、今一度日本人として、謙虚さや困難にも凜として直向きに挑む姿勢といった日本人らしさを再認識し、世界の口腔外科に自信をもって挑んでいければと思います。飯塚教授に常日頃から言われていた、「常に独創的であれ」「どんなに困難な状況でも、決して折れない強い心をもて」という教えを胸に、これからの東京医科大学の発展に微力ながら貢献していきたいと思います。

 最後に、約1年半の留学を許可して支えてくださった近津大地教授をはじめてとする医局員の皆様、単身でスイスに渡り研鑽を積むことを許してくれた家族に、心から感謝を申し上げたいと思います。

 

写真1 Inselspital, Bern University Hospital

A tall building in a city

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写真2 飯塚建行教授と

A group of people standing in front of a store

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写真3 Department of Cranio-Maxillofacial Surgery スタッフの皆さんと

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写真4 ベルン旧市街

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写真5 Queen Elizabeth University Hospital, Glasgow, UK, Mr.Jeremy McMahorn