口腔がんとは、顎や口の中に発生する悪性腫瘍を指します。全がん中の1~2%を占めます。口腔がんの80%以上は病理組織学的に扁平上皮がんであり、他に唾液腺由来の腺系のがんや肉腫、悪性メラノーマ、悪性リンパ腫などがあります。口の中でもがんは、舌、口底、頬粘膜部、上顎歯肉、下顎歯肉、硬口蓋、口唇などいろいろな部位に発生しますが、舌がんが最も多く口腔がんの部位別発生割合で約60%とされています。私たちの施設でも同様な数値を示しています。口腔がんの罹患者は人口の高齢化に伴い年々増加しています。2005年における口腔がんの罹患者は約6,900人に上ります。好発年齢は40歳以降で特に60歳代に最も多いです。男女比は3:2と男性に多いです。
危険因子は喫煙、飲酒、齲歯、不良充塡物、不適合義歯などによる慢性の機械的刺激あるいはウイルス感染、白板症や紅板症などの前がん病変もあげられます。
一口にがんと言っても、人の顔が皆違う様に様々な形を呈します。例えば、同じ舌がんでも写真に示す通り、①の様に隆起するタイプや、②・③の様に潰瘍を形成し内に浸潤するタイプ、④の様に白班を呈するタイプ、その他にも紅班を主体とするタイプや表面は完全に正常粘膜で覆われている様なタイプもあります。
近年、口腔がんの患者様も狭心症などの心疾患や、糖尿病などの代謝性疾患などの様々な合併疾患を有している症例を多く経験します。当科では、医科大学の中の口腔外科という利点を最大限に生かし、関連各科と連携しながら全身疾患を有する口腔がん患者様の治療にあたっています。
○口の中の痛みが続いている。 ○口内炎が数週間治らない。 ○歯を抜いた傷が治らない。 ○口の中にしこり・白班・紅班があり徐々に大きくなっている。 ○口唇がしびれる。 ○飲み込む時に違和感がある。 ○顎の下の腫れがひかない。 |
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など様々でがんの発生する部位や大きさなどによって微妙に変わります。また、自覚症状を認めずに、たまたま受診した歯科医院で指摘されて見つかることも少なくありません。
口腔がんの確定診断は、組織生検で採取した組織を顕微鏡で検査する病理組織検査が一般的です。当科では、がんの疑いがある患者様には可及的速やかに、組織生検を行っております。また、病変を抽出し範囲を調べるために、ヨード生体染色を行います。ヨード生体染色とは、生体に色素剤であるヨードを塗布し、色の染まりなどを観察する方法です。
確定診断後には、
○原発巣の大きさや浸潤範囲の検査 ○頸部リンパ節転移の有無を調べる検査 ○遠隔転移を調べる検査 ○治療を行うために全身状態を調べる検査 |
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により、正確な病期診断(ステージング)を行います。特に①~③の検査は、病期診断には絶対に欠かせない検査であり、検査が行えないとその後の治療にも影響を及ぼすこともあります。
病期分類とは、がんの進行度を表し一般的にはUICCのTNM分類を用いて行います。また、治療方針や術前術後の補助療法の有無の決定などに影響し、がんの治療を行う上で、非常に重要な行程となります。
口腔がんの治療は、手術療法、放射線療法、化学療法の3つの柱からなっており、患者様の年齢・全身状態や社会状況などを加味し、がんの進行状況や組織系に応じて選択していきます。当院では、2010年度より口腔外科医・耳鼻咽喉科医・放射線科医・形成外科医・病理診断医などの関連各科と連携し、一つの症例を多角的に協議し患者様一人一人にあった最適な治療プランを立案しています。また、当科では患者様がいろいろな治療法を知った上で、納得して治療を受けていただける様に、他施設へのセカンドオピニオンもおすすめする場合があります。
- ①舌部分切除
- 舌の一部をがん組織と一塊に切除する術式です。切除後は、縫縮(切除面を縫い縮めること)や、縫縮すると強いヒキツレが予測される場合は、植皮(皮の移植)やPGAシートの貼付を行います。
- ②舌半側切除、舌亜全摘
- 舌の半分、およびほぼ全部を切除する術式です。がんが大きい場合は、口底や下顎骨を合併切除することもあります。また、ほとんどの場合が頸部郭清組織と一塊に切除するため、組織欠損量が大きく再建手術が必要になります。
- ③舌癌の切除後
- 切除範囲が大きい場合は、縫縮すると強い拘縮(ヒキツレ)が予想されるため、写真1の様にPGAシートを創面に貼付したり、植皮を行います。さらに組織欠損量が大きくなる場合は、術前から形成外科医と協議し、写真2、3の様に体の他部位から採取した筋皮弁を頸部の血管と吻合して移植する遊離皮弁を用いた再建手術を行っています。使用する筋皮弁は、組織欠損量や患者様の状態などによって異なりますが、前腕皮弁・腹直筋皮弁・前外側大腿皮弁が多く用いられます。
- ○放射線併用動注化学療法
- 動注化学療法とは、腫瘍の栄養動脈もしくはその付近までカテーテルを挿入し、腫瘍組織に直接抗がん剤を投与する治療法のことです。
カテーテルの先の位置により、選択的もしくは超選択的動注化学療法に分類されます。また、投与ルートとしては大腿動脈を使用する順行性のルートや、浅側頭動脈・後頭動脈を使用する逆行性ルートがあります。これらの治療法は、腫瘍に効率よくかつ大量に抗がん剤を投与できるというメリットがあります。症例によっては、機能を温存しながら外科療法と同等の治療結果を得ることができます。当院では、IVR(血管内治療)専門医による大腿動脈を使用した治療(セルジンガー法)を主に行っています。使用する抗がん剤は、プラチナ製剤のシスプラチン(CDDP、ランダ®)の動注投与に加えて、ピリミジン系代謝拮抗剤のフルオロウラシル (5-FU®)の点滴投与(5日間)を1クールとし、化学療法を2クール行います。同時に、放射線治療を行います。
口腔がんにおいても、他のがん同様に治療後の経過観察が極めて重要です。治療後、1年以内に再発あるいは頸部リンパ節転移の頻度は7割を超えるとされています。特に進行がんやリンパ節転移のある症例ではその可能性が高まることから、当科ではがんの治療に匹敵する程、重要な診療行為と認識しています。定期的で綿密な経過観察をすることにより早期発見、早期治療につながり良好な予後を実現させます。頭頸部がんにおける一般に推奨されている観察間隔を参考に、当科では以下の間隔で行っています。
1年未満 : 1~2回/月 2年目 : 1回/2カ月、ハイリスク症例では1回/月 3年目 : 1回/3カ月 4年目 : 1回/4カ月 5年目以降 : 1回/5カ月 |
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- 経過観察時の検査項目
- 病期、術後の状況あるいは補助療法を考慮し、適宜検査を行います。
視診、触診、内視鏡、超音波検査、CT、MRI、レントゲン、核医学、PET、血液検査、腫瘍マーカー、
細胞診、組織生検 など。