留学

  • トップ
  •  › 
  • 学会・研究
  •  › 
  • 留学

過去の留学先

東京大学脳研究施設病理学部門

(秋元治朗)

米国Stanford大学 脳神経外科

(西達郎)

米国Brigham and Women's Hospital 放射線科

(和田 淳、中島伸幸)

独国ハインリッヒ・ハイネ大学 脳神経外科

(深見真二郎)

愛知医科大学 脳神経外科(脊髄脊椎外科)

(山田裕二)

亀田総合病院 脊髄脊椎外科

(橋本 亮) など

留学報告

米国Brigham and Women's Hospital 放射線科(中島伸幸)

はじめに
 2006年4月より2008年3月までの2年間,和田淳先生の後任として、米国Massachusetts州BostonのLongwood Medical Area (LMA)に位置するHarvard Medical school (HMS)提携病院のひとつBrigham and Women's Hospital (BWH)の放射線科にresearch fellowとして、研究に従事する機会を得ましたのでご報告致します。
 私は、Ference A. Jolesz 教授が主宰する術中MRIを世界で初めて導入したImage guided therapyの先駆けであるSurgical planning laboratory (SPL, www.spl.harvard.edu) に所属し、波多伸彦講師をsupervisorとし、"バーチャル神経内視鏡画像を応用した軟性神経内視鏡ナビゲーションシステムの開発"等に従事しました。

Bostonおよび New England地方
医療学術従事者にはなじみのあるBostonは、米国北東部のNew England地方(Maine, New Hampshire, Vermont, Massachusetts, Rhode Island, Connecticutの6州)に位置する米国有数の大都市です。
 2007年の松坂、岡島のBoston Red Sox入団と共に学術関係以外の人々にも、その認知度が広がったようですが、Bostonは,京都市と姉妹都市提携していることから察せられるように、米国の原点、故郷としての色合いが強い都市と感じられました。1620年のメイフラワー号の漂着地PlymouthがBostonから車で南へ45分程に位置し、市内には、ボストン茶会事件の現場や、米国最古の公園であるBoston common、ボストン美術館等々観光名所に尽きることはありません。また,全米にて唯一の4大スポーツ全てのホームタウン(Boston Red Sox, Boston Bruins, Boston CelticsそしてNew England Patriots)となっています。数多くある全米プロスポーツチームの中で、ファンの熱狂度、第一位と二位がRed SoxとPatriotsだと同僚のアメリカ人が言っていました。事実,2004年のRed Soxのワールドシリーズ制覇時には死者も発生し、その熱狂ぶりは日本にも伝わったことと思います。
 New England地方の四季は格別であり、春、Bostonマラソンではじまり、Charles riverを中心に街は緑と花で色づき、夏はCape Codなどでの海水浴、秋はTangle woodの音楽祭やVermontの美しい紅葉、冬は街の至る所でスケートやソリ、少し郊外に出ればスキーを楽しむことができます。食も豊かでありロブスター、ボストンマグロ、クラムチャウダー(クラムチャウダー以外は高価のため、企業からの海外赴任者と異なり厳しい経済状況で渡航した大学病院勤務医の研究者の我々が口にすることは殆どありませんでしたが)、周囲にはリンゴ、ブドウ、桃、グランベリー等々四季を通じて果物も豊富にあり、農園での果物狩りを家族で楽しむことができます。また、地ビールが格別で、Samuel Adams、Harpoon等、舌で味わいを楽しめるビールが、小瓶1ドル以下にて購入でき晩酌には欠かせませんでした。

Longwood Medical Area
 Bostonは、大学、病院、学術機関が所狭しに集積する医療産業クラスターとして知られています。その中核的役割を果たしているのがBostonの南西部にあるLongwood Medical Area (LMA)です。Harvard大学はCharles riverの北側に位置しますが、南側のLMAは、医学部、歯学部および公衆衛生大学院の拠点となっており、Harvard大学医学部の教育提携機関の主力6施設の内、Massachusetts General Hospital (MGH)を除く5つ、BWH、Beth Israel Deaconess Medical Center、Children's Hospital Boston、Dana-Farber Cancer Institute、Joslin Diabetes Centerが医学部を中心とする半径1.2kmの狭い範囲に存在しています。さらに、その半径を5kmに広げると、MGH、ボストン大学、タフツ大学、マサチューセッツ工科大学 (MIT)など名だたる学術医療機関がクラスターを形成しています。
 私が所属したのはBWHですが、通り1つ挟んだ医学部のすぐ裏手にあり、隣接する6階建てのHMS付属図書館には、The New England Journal of Medicineのオフィスが存在していました。また、SPLの上級スタッフの多くはBWHでの肩書き以外にHMS、MIT等でのポジションも有しており、地域的密着度と同様に人的に密接なネットワークを形成し、相乗的にその力を発揮し、全ての関係する人々がwin-winに配慮し、その成果を世界に発信している印象を得ました。

研究内容
 肝心の研究は主に、下記4点の研究を行いました。
1.バーチャル神経内視鏡画像による手術シミュレーション研究 -- 神経内視鏡手術が行われた臨床画像から、バーチャル神経内視鏡画像を作成し、Surface及びVolume renderingの2つのコンピュータグラフィックの手法を用いて 比較検討しました。本研究結果は、雑誌NeuroImage (Surface rendering-based virtual intraventricular endoscopy: retrospective feasibility study and comparison to volume rendering-based approach. Vol.37: S89-S99, 2007)に掲載されました。
2.軟性神経内視鏡に対する小型磁気位置センサーを利用した手術ナビゲーションシステムの開発 -- 上記1の研究結果に基づき、バーチャル神経内視鏡画像、軟性神経内視鏡、小型磁気位置センサーを統合したナビゲーションシステムの開発を行いました。Stereolithographyを用いた脳室ファントムモデル及び豚実験による研究を行いました。本研究のために、私自身が研究代表者として米国Center for Integration of Medicine and Innovative Technology (CIMIT) 財団 に研究費の申請を行い、CIMIT Science Award 2008を獲得しました。
3.術中MR画像を利用した術前機能MRI及びDiffusion tensor imaging (DTI)のレジストレーション研究 -- BWHの脳神経外科医Alexandra Golby医師と共同にて術中MRIに対してfMRI及びDTIを統合し手術支援を行いました。
4.頭蓋底外科に対するロボット手術研究 -- ジョンホプキンス大学工学部コンピュータ科学及び医学部脳神経外科による聴神経腫瘍に対する内耳孔開放のためのロボット手術の開発において、死体頭蓋の3次元画像作成,ロボット手術前後の3次元的評価を担当し、研究協力を行いました。

米国での研究費獲得
 この2年間の研究において、大きな収穫の1つが研究費の申請とその獲得でした。これを通じて米国の研究体制とその病院を挙げてのサポート体制を実感しました。1年目の予備研究終了後、前述のCIMITへ、"Real-time electromagnetic navigation for flexible-neuroendoscopy"のタイトルにて研究費の申請を行いました。米国の研究費としてはNIHが最大のものですが、研究費のソースとして次いでウェイトを占めるのが、Department of Defense (DoD)からの資金です。このCIMITの研究費のソースも主にU.S. armyからのものであり、我々の研究課題にも、"Potential Soldier Benefit"と記されているのを見たとき、何とも言えぬ汗が背中を流れました。しかし、直接経費4万ドル程度の小さい研究費でしたが、採択率は20%以下であり、名も知れない日本人を援助してくれた米国に、チャンスの平等性を感じ、感謝しました。また、採択と同時にBoston globeのboston.com (2007.5.7号)に私の名前が掲載されたり、BWHのPresidentから"Congratulations!"のemailが届いたりと、米国のcheerの精神を感じました。
 この研究費を獲得後、豚実験を行うための準備を一から始めました。Harvard大学内の動物倫理委員会へプロトコール申請を行い、その許可を得るために獣医とのミーティングを重ね、何とかHarvard大学での動物実験プロトコール番号 (4390号)を獲得し、更にDoDの動物倫理委員会の審査を経て、実際の準備が整うまでに6ヶ月以上があっという間に過ぎ去りました。この間も、俗にいわれる米国特有のいい加減さに苦しめられることはなく、研究に携わる人々全てがスマートで好意的と感じました(私の英語力の未熟さと鈍感さのためかもしれませんが)。強いて言えば、あらゆる実験準備を慣れない中でお膳立てしたにもかかわらず、豚担当のテクニシャンがフルにかかり、実験が帰国前日にずれ込んだ時はさすがに困りましたが、今となっては良い思い出です(妻には一生言われると思いますが)。

おわりに
 最後に、本研究の前任であり、入局以来最も信頼するmentorの和田淳先生、神経内視鏡の師匠三木保教授、私のわがままを許容してくれた原岡教授、苦しい脳外科医局の現状の中で支えてくれた同僚の皆様、そして、あらためて家族の大切さを教えてくれた妻、3人の子供(内1人は米国にて出産)、兄弟、両親にこの場を借りて、心より感謝申し上げます。

独国ハインリッヒ・ハイネ大学 脳神経外科(深見真二郎)

 私は2008年8月より2009年12月までドイツのデュッセルドルフにあるハインリッヒ・ハイネ大学病院に留学をしてまいりました。デュッセルドルフはドイツ北西部に位置するドイツ最大の州であるノーダーラインウエストファーレン州の州都であり、人口は約65万人と日本でいえば熊本市ぐらいの規模の都市です。とはいってもドイツ国内では8番目の大きさの都市であり、2007年の世界暮らしやすいランキングでは第5位と(東京は35位)ドイツの中でも人気のある都市です。犯罪率はそれほど高くなく、生活コストも安く、特にビール・ワインなどは日本の半額以下で買えます。また、ドイツの鉄道網は非常に発達しており、どこでもいつでも乗れます(終電という概念がありません)。夜中の二時に町中で泥酔しても一人で安全に帰れます。デュッセルドルフ最大の特徴といえば約7000人の日本人(100人に1人が日本人!)が住んでいることであり、ある町の一角にすめば日本語で生活ができるといわれています。実際大学病院でも脳外科の二人を含め、血管外科に一人、心臓外科に一人、一般外科に一人、整形外科に一人と一時期には計七人の日本人医師がいました。ドイツ人は仕事後の一杯をしないので、よく日本人医師の同僚と飲食をしました(そのためドイツ語の上達が遅い!)。

 最初の半年は脳神経外科での手術研修を主に行いました。脳神経外科は年間手術数約2500件、教授が4人とドイツでも最大規模の施設の一つであり、特徴としては他の施設より血管障害の開頭手術を積極的に行うことやglioma以外の脳腫瘍の手術にも5-ALAやICGなどの蛍光物質を使うことです。私は教授の一人であるProf. Stummerに一番お世話になりました。彼は5-ALAによるgliomaの研究が有名ですが、実際は下垂体手術を含めた頭蓋底手術グループのtopであり、TSS, acoustic tumor , skull base meningiomaなどは彼のチームで行っていました。TSSに関しては私が留学した時期から内視鏡単独手術を始めたこともあり、耳鼻科の先生と試行錯誤しながら行っているのに立ち会えたのが幸運でした。しかし、手術時間の長さや出血のコントロールのしやすさから、拡大TSSが必要でない場合は顕微鏡手術に戻っていました。頭蓋底髄膜腫の手術の特徴としては前方の腫瘍に関しては小型の前方側頭開頭を使い、高齢者の場合はeye blow skin incisionのkey hole approachも行っていました。中頭蓋から後頭蓋窩腫瘍にかけてはmiddle fossa approachからのintradural からのdrilling (trans-dural drillingと言っていました)を積極的に行っています。時間が通常のpetrosal approachより短縮できますが、余程慣れていないと危険です。以上の様に最初の半年間は手術見学や手術助手をしながら研究のメインテーマを絞っていきました。その後、以前より興味のあった髄膜腫の遺伝子解析を開始しました。そのために、研修の場所を神経病理部門に移し今度はメスではなくピペットやサーモサイクラーと格闘することになりました。ハインリッヒ・ハイネ大学病院神経病理部門の主任教授はoligodendroglioma等の研究で世界的に有名なProf. Reifenberger (WHO blue book 2007のoligoのsectionも執筆されております)です。スタッフはMD, scientist, technician併せて50人以上おり、日本の神経病理部(そもそも神経病理が一般病理と分かれていることは少ない)では考えられない規模です。神経病理部の中でもneuro-oncology, Alzheimerなどの変性疾患、neuromuscular disease, 精神疾患の4つのグループに分かれており、私はneuro-oncologyのグループに入れてもらうことになりました。私を直接指導していただいたのはDr. Riemenschneiderという私より2歳年下のneuro-oncologistでした。彼は35歳とまだ若いのですが、毎年のようにhigh impact factorの雑誌に投稿し、またgrantも沢山持っており、非常に優秀なdoctorです。

 そこで、私は豊富なmenigniomaのサンプルを使い、遺伝子解析を行いました。そこで髄膜腫の悪性化に関与するとおもわれる2つの遺伝子を見いだしました。

 最後にこのような機会をくださった原岡教授、医局の皆様、単身での留学を認めてくれた妻に感謝をし、報告を終わりたいと思います。