胃|対応疾患


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  腹腔鏡下・ロボット支援下胃切除術

胃がんについて

基礎知識

 胃の壁は内側から粘膜層、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層および漿膜層の5層からできています。胃癌とは、胃の最も内側の層である粘膜層に発生する悪性の腫瘍です。大きくなるにしたがい外の層に浸潤していき、粘膜下層までにとどまるものを早期胃癌、固有筋層より外の層に浸潤したものを進行胃癌と定義します。
 浸潤の過程でリンパ管や血管へ癌が侵入してリンパ節転移や肝臓、肺等に転移します。また、癌の浸潤が漿膜まで達すると癌細胞が腹腔内に散らばり腹膜播種(ふくまくはしゅ)をきたします。

進行度とステージ

 胃癌ではⅠA期,ⅠB期、ⅡA期、ⅡB期、ⅢA期、ⅢB期、ⅢC期およびⅣ期に分けています(胃癌取扱い規約第15版;病理分類)。
以下を判定の基準とします(ローマ数字が小さい方が早い時期で根治性が高くなります)。

 ① 胃の壁のどの深さまで浸潤しているか
 ② リンパ節の転移があるか
 ③ 肝臓、腹膜または胃から遠い臓器への転移があるか

早期胃がん(0型)の肉眼型分類
(がんが粘膜下層までにとどまる)

進行胃がんの肉眼型分類
(Borrmann分類)

■生存率について
 5年生存率という言葉は、5年後のどのくらいの確立で生存されているかということを示しており、再発しながらご存命な方も含まれます。
 当院での5年生存率はStageⅠA:95% 、StageⅠB:85% 、StageⅡ:66%、StageⅢA:53%、StageⅢB:46%、StageⅣ:14%です。

手術方法

<胃癌の治療>

■内視鏡的治療
 リンパ節転移の可能性の低い病変に対して、内視鏡で癌を切除する方法が選択されることがあります。内視鏡的切除が選択された場合でも、根治性の観点から、追加で手術をお勧めする場合もあります。

■外科手術
 当院胃外科では、病変の位置や進行度により、患者様に最適と思われるテーラーメイドな外科治療を提供しています。根治性、機能温存、低侵襲をモットーに開腹/腹腔鏡のアプローチ下に、早期胃癌に対する機能温存手術や低侵襲手術から、高度進行胃癌に対する定型的D2胃切除、胃全摘、膵頭十二指腸切除、膵尾部脾合併切除術、腹腔鏡下・胸腔鏡下での中下縦郭郭清、傍大動脈リンパ節郭清まで行っております。

・局所切除:
・幽門側胃切除術:
・噴門側胃切除術:
・胃全摘術:
胃の部分的な切除
胃の出口である幽門を含んだ胃切除。胃の約2/3の切除
胃の入り口である噴門を含んだ胃切除。胃の約1/2の切除
胃の全切除

幽門側胃切除術

噴門側胃切除術

胃全摘術

<腹腔鏡下胃切除術>
 当院では根治性と機能温存および低侵襲を追求した体に負担の少ない腹腔鏡下手術を行っています。すべての胃切除術に対応可能であり、術後の生活の質や体への負担を考慮し、あらゆる年代の患者さんにお勧めできる手術を提供しております。

手術のリスク:術後合併症

1)種類
胃切除に関する合併症:
 縫合不全、吻合部狭窄、腹腔内膿瘍、膵炎・膵液瘻など
手術全般に関連する合併症:
 術後出血、無気肺・肺炎、静脈血栓症・肺血栓、創感染、各種臓器異常、麻酔に伴うものなど。

2)頻度
 合併症の判断基準が施設によって異なり、明らかな数値として示すことができませんが、およそ10%程度といわれています。また、致命的になる率(手術関連死亡)は1%未満です。当院で2021年度におこなった症例の手術関連死亡率は0%でした。ただし、手術前から様々な臓器以上のある方、高齢者の方ではこれらの頻度が高まることは否定できません。

3)胃切除後障害
 胃を切除したために起こるさまざまな障害のことです(必ずしも起きるわけではありません)。個人差がかなりあり、種類と程度はさまざまです。しかし、なかには数年経ってはじめて出てくる障害(ビタミンB12欠乏による貧血やカルシウム欠乏による骨粗鬆症など)もあります。
●比較的早期に起きるもの
 ダンピング、低血糖、逆流性食道炎など
●ある程度の経過後におきるもの
 貧血、骨粗髭症、腸閉塞、残腎癌(残った胃に新たな癌が発生すること)

化学療法(抗がん剤)

■切除不能進行胃癌や再発胃癌に対する治療
 切除不能進行胃癌や再発胃癌に対しての治療は、抗がん剤を用いて行われます。日本を含めた全世界で行われてきた多数の臨床試験の結果、胃癌に対する有効な薬剤が使用されるようになってきています。近年急速に進歩しつつある分子標的治療薬などの新たな薬物療法を含め、当院では常に最新の医療を提供できるよう努めています。

■術後補助化学療法
 治癒切除術が行われた患者様でステージⅡ, Ⅲの方に対して、術後補助化学療法を行うことが一般的になっています。胃癌における術後補助療法は、手術のあと、体内に遺残している可能性のある微小な腫瘍による再発を予防することを目的としています。これまでに行われてきたさまざまな臨床試験結果、一部を除くステージⅡ, Ⅲに対し、術後一定期間、化学療法を行うことが推奨されています。

胃粘膜下腫瘍の治療

 消化管の粘膜の下にできる悪性の粘膜下腫瘍です。頻度は10万人に2人程度と癌に比べて少ない病気です。臓器別では胃が最も多く約80%で次いで小腸、大腸、食道の順です。 症状は殆どなく、検診などで偶然に発見される場合が多いですが、進行すると腹痛や貧血等の症状がでてきます。GISTなどのリンパ節転移の頻度が低い病変の場合、腫瘍の完全切除が可能であれば、胃局所切除が行われ、可能な限り胃の機能が温存する手術を行います。当院では局所切除が難しい、病変が胃の入り口(噴門)・出口(幽門)に近い腫瘍に対してでもLECS(腹腔鏡・内視鏡合同手術)などの低侵襲手術により、胃を大きく切除することなく、腫瘍を摘出する治療を提供しています。転移は癌のようにリンパ節に転移することは稀ですが、転移がある場合や手術後の再発に対しては、メチル酸イマチニブ(商品名:グリベック)による内服治療を行います。

減量・肥満に対する治療

 欧米では肥満症(BMI35kg/m2以上の)に対する外科的治療は一般的であり、高い治療効果が示されています。手術により、過剰体重の50-80%の減量、糖尿病の55-95%を大きく改善することなどが分かっています。この他にも、脂肪肝や高血圧、睡眠時無呼吸症候群などに対しても効果があることが明らかになってきています。当院では体への負担の少ない低侵襲手術(腹腔鏡下手術)で肥満症に対する手術を行っております。具体的な術式は、2014年4月より日本で医療保険の適応となった、胃の外側部分を80%程度切除し管状に形成する、腹腔鏡下スリーブ状胃切除です(図参照)。胃が小さくなることにより経口摂取カロリーが制限され、体重減少につながります。また、術後は消化管ホルモン(グレリン、GLP-1など)の分泌の変化により、食欲抑制や糖代謝の改善などの効果も得られます。