肝臓|対応疾患

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肝臓癌について

基礎知識

 肝臓は、成人で1000~1500gと体内最大の臓器で、胃腸からの血液(門脈血)を集めて、体内の栄養素を合成、貯蔵したり、薬物や毒素など不要物を代謝、排泄したりします。また胆汁を分泌し食物やビタミンの吸収を助ける働きもあり、生体にとって極めて重要な役割を果たしています。

 肝臓がんは、原発性肝がん(肝臓から発生したがん)と転移性肝がん(他臓器のがんが肝臓に転移したがん)に大別されます。原発性肝がんは、肝細胞がんが約90%、胆管細胞がん(肝内胆管がん)が約5%を占めます。肝細胞がんで、日本人の場合、肝炎ウイルス(約75%がC型肝炎、約15%がB型肝炎)に感染している人に多く発生し、しかもその多くが肝硬変を合併しています。したがってB型、C型肝炎ウイルスに感染した人は、肝がんになりやすい高危険群とされています。転移性肝がんとは大腸がん、胃がん、食道がん、乳がんなど他の臓器のがん肝臓に転移したものであり、主に大腸がんからの転移が外科的切除の対象となります。

 肝臓は肝細胞と胆管上皮細胞、その他の血管やリンパ管の細胞により成り立っています。その中の肝細胞ががん化した場合を「原発性肝細胞がん」といいます。いわゆる「肝癌」や「肝臓癌」と呼ばれるものは、この原発性肝細胞がん(以下、肝細胞がん)のことを指しています。肝細胞がんによる死亡者数は、年間約3万人です。肝炎ウイルスに感染した肝臓に多く発症し、C型肝炎でより顕著です(肝細胞がん死亡者の約75%)。C型肝炎は1930年代に誕生した世代に多いのですが、感染者数は減少しており、それに伴い肝細胞がんによる死亡者数も減少すると予測されています。また、C型肝炎では、肝硬変を経て肝細胞がんを発症します。B型肝炎は世界的には肝細胞癌の最大の原因ですが、日本では肝細胞がん死亡者の約15%です。C型肝炎と異なり、肝硬変が存在しない感染者に発がんすることもあります。また、ウイルス性肝炎やアルコールの多飲による肝硬変以外でも肝細胞がんを発症することがあり、生活習慣病のひとつである非アルコール性脂肪性肝疾患(NASH)からの発癌もあります。

進行度とステージ

 肝臓は沈黙の臓器といわれ、がんを発症しても、症状を呈することはほとんどありません。このためB型、C型肝炎ウイルスに感染している肝細胞がんの高危険群に属する方は早期にがんを発見するため、定期的な検査が必要です。定期検査では、血液検査(AFP:アルファ・フェト・プロテイン、PIVKAII: ピブカ・ツゥー)や腹部超音波検査のほか、必要に応じてCT検査などが行われます。

手術方法

 肝細胞がんに治療法の選択について最も重要なことは、肝細胞がんが肝臓内のみに存在するのか、別の場所に転移しているかです。すでに転移のある肝細胞がんは外科切除を含めた根治治療の適応になりません。そのような場合、これまでは緩和治療(すなわち癌そのものの治療ではなく癌に伴う痛み等のコントロール)が行われることが多かったのですが、最近はソラフェニブという内服薬の投与が行われます。肝細胞がんが肝に限局している場合、すなわち転移がみられないときは治療の対象となります。治療法の選択の基準は、「肝障害度」「腫瘍の数」「腫瘍の大きさ」の3つです。肝臓はとても重要な臓器であり、現在、代用肝臓はありません。そのため、肝臓の機能を損なわないように治療を行います。それには治療前に患者さんの肝障害の程度(=肝障害度)を十分に把握しておく必要があります。

1)肝切除術
 病巣を外科的切除した際に、残った肝臓(残肝)が十分機能し、通常の生活が出来る場合に行われます。肝切除の方法や切除量は肝細胞がんの数や大きさ、癌の部位にも依りますが、概ね3個程度です。それ以上の個数の場合は、手術に他の治療法を併用することが多く行われます。

2)局所凝固療法
 肝障害度が強く、外科的な切除が出来ない場合などは、局所凝固療法が行われます。その代表的な方法が「ラジオ波照射」です。針状の器具を体外より病巣に向けて穿刺し、加温することでがん細胞を凝固壊死させます。対象となる肝細胞がんの概ねの基準は、直径3cm以下で個数3個以下とされます。当科では、消化器内科と協力し行なっています。

●超音波ガイド下またはCTガイド下、腹腔鏡下、開腹下に電極針を腫瘍部に到達させ、ラジオ波を照射することで、腫瘍部を焼灼壊死させる。
●電極が熊手状に広がり、1回の照射で焼ける範囲が広い。

●RFAと同様にして電極針を刺し、マイクロ波を照射す方法。
●RFAより広範囲の治療が短時間で可能であり、近年普及しつつある。

3)経カテーテル的肝動脈化学塞栓療法
 肝細胞がんを栄養する肝動脈内に抗癌剤と固形塞栓物質(ゼラチンスポンジ細片など)を注入し、がんを阻血壊死させる方法です。現在では、主に切除不能で局所凝固療法の対象外とされた肝細胞がんに対し行われます。集学的治療(いくつかの療法を組み合わせた治療法)の中心的役割を担っており、当科では、放射線科と協力し行っています。

4)放射線療法
 集学的治療のひとつとして、肝だけでなく、リンパ節転移や骨や脳への転移巣に対しても行われます。当院では、放射線科が中心で行われています。

5)全身化学療法(薬物療法)
 2009 年5月に切除不能肝細胞癌に対するソラフェニブ(商品名、ネクサバール)の保険承認が得られました。主な有害事象(副作用)は手足皮膚の発疹です。今後の展開が期待される薬剤です。

6)肝移植
 一定の基準(ミラノ基準:5cm以下単発、3cm以下3個以下)を満たした患者さんが移植適応となります。当科では肝細胞がんに対する移植は行っておりません。