学会・研究会の報告

CROI 2019 (シアトル) に参加してきました

報告者 : 近澤 悠志

近澤 悠志

カテゴリ : 学会 研究会

201934日から7日の日程で初めてCROIに参加させて頂きました。

HIV感染症と血栓止血学を専門とする東京医科大学臨床検査医学科に所属して9年になりますが、このようなHIV感染症関連の大きな学会に参加させて頂くのは初めての機会で、貴重な機会を与えてくださいました関係者の皆様に深謝いたします。最初に抄録を見たときその演題数の多さに驚き、どのように学会期間を過ごすべきか想起するのに、行きの飛行機の中で四苦八苦しました。

 

3月のシアトルはとても寒く、到着後に空港で乗り合いバスに乗る際にも待合場所で白い息を幾度も吐き続け、そもそもその場所で待つことが正しいのか分からず心細かったことを記憶しています。待ちわびた乗り合いバスが実際に動き出した時には、ドライバーの優しさと車内の気温で予想以上に心も身体も温かくなりました。

 

 出発してから帰国するまで、自分は実際に臨床でHIV感染症に携わる中で感じているやりがいは何だろう、これからどういう風に関わっていくことが社会貢献になるだろうと、普段考えないようなことを考える時間を頂いたことも収穫の一つだったと思います。

 自分が感じているやりがいは、HIV感染症のirregularさにあると思っています。社会背景、医学的側面、心理的側面、医療経済的側面などいろんなところから問題が噴出する毎日で、一筋縄に行かないことがかなり多いことは事実です。え?そんなことあるの?と毎日新しい問題点を発見し、時間をかけて消化してきた(消化不良も多かった)9年間でした。めげながらも毎日曲げなかったのは、『何があっても明日も病院にいくぞ!』という謎の気概だけで、新たに出会ったirregularを自分のregularに近づけていること自体に面白さを感じていると思っています。

 

 実際に学会に参加し、まず驚いたのは新薬の技術に関することです。これまで現実的ではないとされてきたHIVに対するワクチンの開発が進み、感染予防・治療に用いるための臨床応用がなされ、実用の期待が高まっているとのことでした。実際の日常臨床においては悪性腫瘍、血友病の分野でも抗体製剤が臨床応用されてきており、ここでも同様の技術が生かされていることに大きな期待を感じました。

 その他、Cabotegravirなどの半減期が長い注射製剤の開発や、抗HIV薬をインプラントや経膣リングに含有させたものを使用するなど、あの手この手で問題解決に迫っている研究者達の熱意を感じました。

 

 一番印象に残ったのは、タイの赤十字病院にいらっしゃるPraphan先生の講演でした。アジアからのOral発表であったことも去ることながら、タイでのPrEPの取り込みについて力強くプレゼンテーションされており、会場からは大きな拍手が寄せられていました。

 HIV新規感染のリスクを下げるという強い意志を感じ、こういう熱意を持ったプロになりたいと強く思いました。翌日のポスターセッションでPraphan先生をお見かけし、勇気を振り絞って話しかけてみたところ、非常に好意的にお話くださり、最後はいろいろ大変だけどアジアも頑張ろうねとお声かけくださりました。せっかくなので写真撮りましょうかという話になり、お互いの携帯でお互いの2ショットを自撮り撮影しました。国境と世代の壁を越えて作った今回の学会最高の思い出で、いい刺激を受けました。

 

 シンポジウムやオーラルセッションで高齢化の話題、肝炎ウィルス感染・梅毒感染、性感染症の話題、妊娠分娩に関する女性特有の問題、どうしても拭いきれないスティグマの問題などのテーマにおいて、非常にわかりやすい飽きさせないプレゼンテーションが続き、知識のインプットやアップデートが効率的にできました。

 

 また、自分が平素医局に所属しながら主な研究テーマと考えているのは血栓止血分野なのですが、HIV感染症と血栓止血領域が合わさったテーマのポスター発表がいくつかあったのが印象的でした。具体的には、HIV感染症患者の深部静脈血栓症を発症したリスクファクターについて、インテグラーゼ阻害薬の内服で血小板凝集能が抑制されることについて、抗HIV抗体の抗体量とDダイマーの関係性の評価など、今後自分が解明していきたいと感じるテーマにも広く振れることができました。

  

 最後に、『何があっても明日も病院にいくぞ!』の精神を大切にし、これからもHIV診療に関わり続けていくことで、今回頂いた貴重なCROI参加の経験を社会に還元していけるよう頑張っていきたいと思います。

 本当にありがとうございました。





            臨床検査医学科 近澤 悠志


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