学会・研究会の報告

血栓止血学会に参加してきました

報告者 : 天野 景裕

天野 景裕

カテゴリ : 学会 研究会

血栓止血学会 名古屋 2017覚書 

2017/6/12 天野景裕

ランチョンセミナー1 後天性血友病 

 

・治療に関して、長期にプレドニンを飲んでる人には、再発の予測として、VWFとの乖離が役に立つかもしれない。VWFに対してのほうが比で0.7以下になるとインヒビターが再燃してくるようだ。→今後、フォロー時にVWF抗原も並行して測定していきましょう。

 

SPCシンポジウム

ProteinZPZ)はPZ dependent Protease Inhibitor(ZPI)と結合して、Xaを阻害する役割を持っている。

Xa阻害剤はGPVIを介して血小板の活性化を阻害する作用もあるようだ。

VIIaは流血中に健常人でも1%くらいは存在している。

VIIaseコンプレックスという概念: VIIの活性化はトロンビンとXa、そしてVIIaによるオートアクチベーションがある。

VIIaは内皮細胞から出てくるTFと結合しないと基本的には作用はしない。リン脂質とTFの両方との結合がないと作用はしていかない。なので、局所でしか基本的には作用しないということになる。

TMはトロンビンと結合してPCAPCに活性化する酵素に変換させるが、TAFIを活性化させるのにも働いている。つまり、TMによるトロンビンの変換によって、抗凝固もするが、抗線溶にも働いていることになる。

・線溶は凝固が完成してフィブリンができたところから、そこからフィブリンとプラスミノゲンとtPAのコンプレックスによって線溶が始まるのが基本ではある。しかし、実はフィブリンが形成されていく途中からでも線溶は働いているようだ。

XIII因子はα2PIをリンクさせていくことで線溶を阻害して血栓を強固にする。

・血小板からPAI-1が出てくることも早くからの線溶を阻害することになっているようだ。それは、特にずり応力が高い動脈系において顕著であるようだ。

Precision Medicineという概念:EBMに相対する概念となる。(オバマも提唱していた)

 

バイエルトロンボーシスセミナー

DOACとその阻害剤の話

・ダビガトラン(プラザキサ)はAPTTに相関する。(Xaseコンプレックスに作用の影響があるのであろう)

・リバーロキサバン(イグザレルト)はPTに相関する。(プロトロンビネースコンプレックスに作用が影響するのだろう)

・でも、上記の相関はするが試薬によってその程度は違う(感受性は違う)標準化されていないので、個人のフォローと比較はできるが、全体での比較はできない。

・アピキサバン(エリキュース)はあまりPTに影響しない。

DOACの出血事象はトラフ値が高いと多くなるという相関がある。

DOAC阻害剤は、3種類開発。

1.     プリズバインド:ダビガトランに対するMAb。投与15分後にはダビガトランの作用を中和する。市販。

2.     アンデキサネットα:Xaのデコイ:Xa阻害剤がXaと結合するのを競合阻害する。治験中

3.     シラパランタグ:ダビガトランにも結合する、Xa阻害剤にも結合する、ヘパリンにも結合する マルチな薬剤 (Circulationに報告有り)治験中

★アスピリンのがん発生率と死亡率に与える影響の話

・ランセットに報告:欧米の中高年のデータ。全がん死亡率はメタ解析でアスピリン100mg内服群はOR0.79で低下する。内服から5年くらい経つと差が出てくる。発症率も、死亡率も低下するという報告がある。

・日本ではどうなのかというスタディがJPPPスタディ:15000人を対象に行われた血栓イベントの一次予防効果をみたスタディ。5年間のデータ。心筋梗塞も脳梗塞も一次予防としては、効果は認められなかった。がんに対してサブ解析を行った。発症率はアスピリン群の方が有意差ありで、やや高くなってしまった。死亡率は有意差なし。5年のデータなので、そうなったのかもしれない。アスピリン内服群の方が消化管出血などの出血事象にて病院で何かを調べられる機会が多かったから、早く見つかっただけなのかもしれない。何とも言えない。少なくとも一次予防としてはどちらも積極的にするようなデータは出なかった。

★動脈硬化に関して

PARに関して、HIVと関連性は?

Xa阻害剤は血管壁の炎症を抑える効果もあるようだ→動脈硬化を抑えるかもしれない。

HIV患者でXa活性を測定したらどうなるか?ARTしたらどうなるか?興味深い。

 

教育講演:α2PIについて

 α2PIはその存在モル数はプラスミンに対応するモル数としては少ない。つまりプラスミンが強く活性化される状態では、α2PIは消費により低下しやすい。→フィブリン内のXIII因子にリンクしているα2PIも低下する→線溶抑制が効かなくなるのでフィブリンが早期分解されてしまい出血傾向になる→プラスミンがフィブリンのところから流血中に出てきても通常ならα2PIが中和するが、α2PIが減少しているこの状態では抑制されないのでフィブリノゲンをも分解してしまい低フィブリノゲン血症となってしまう。

消費性凝固障害という概念は上記のことが生じているために低フィブリノゲン血症になってしまっている可能性が高い。つまりフィブリノゲンが低下したから出血しているわけではなく、結果としてフィブリノゲンが低下して、さらに出血が助長されているのであろう。

そこを見極める検査値としてはα2PIがとても有用でα2PI66%をカットオフにしたときにそれ以下に下がっているときは消費性凝固障害であると診断できるROC曲線のAUC0.9を超える。

 

一般演題 

FVIIIの検査法

・名大の合成基質法(CSA)のデータ:ファイテンのキット

 r-FVIIIいろいろをスパイク検体にして測定:ほとんどCSA測定の方が凝固法よりも高値であった。イロクテイトはほぼ2倍になった。in vivoのリカバリー検体でも同様にCSAの方が高値となった。

・済生会中央病院のCSAデータ:シスメックスのキット

 スパイク検体:ノボエイト、アディノベイト、イロクテイトなど修飾型FVIIICSAが高値になったが、他の完全長製剤はあまり違いはなかった。

Xaの合成基質はどちらもSXa11を使用405nmの測定

IXCSA測定(慶応大学):製剤のスパイク検体 概ねCSAの方が低いデータになった。PPSB70%、ベネフィクス:50%、リクスビス:70%(凝固法では150%くらいとむしろ高い)、オルプロリクス:60%

イデルビオンだけ120%と高いデータになった。

・奈良医大 松本先生のCWAを用いた凝固線溶同時確認検査法

 tPAをカルシウムと同時に加えることで、フィブリンができるまでの凝固の評価とそののちの線溶評価が同時にできる方式。血友病検体では線溶も早くに始まっていることが示唆された。それが、血友病におけるフィブリンクロットの脆弱性の原因なのではないか。XIII因子によるクロスリンクなどがうまく働いていないからかもしれない。

 

★インヒビターの管理

IXに対してベセスダタイターは出ていないが、回収率が低下し半減期が短くなってしまった症例でアレルギー症状がでてしまった2症例。名古屋の発表。ステロイドと抗ヒスタミン薬の前投与で少量からの投与を連日行い減感作に成功した。2週間から4週間かけて行っている。

 

シンポジウム

★腸内細菌叢と動脈硬化 

・ファーミキューテス門の菌>バクテロイデテス門の菌 のバランスの人は太りやすく、動脈硬化をきたしやすく、冠動脈疾患を起こしやすい。

ファーミキューテス門菌:エンテロコッカス、ストレプトコッカス、ラクトバチルスなど

バクテロイデテス門菌:バクテロイデスなど

 

株式会社:サイキンソーが2万円でMykinsoという個人の腸内細菌叢バランスを調べる検査をやっている。(いわゆる自宅でできる検査)

 

TMAOという物質が腸内細菌による影響で食事との関係で上昇すると動脈硬化が進む。

・抗CD3抗体や活性型VitD3をマウスに内服させるとマウスのTregや免疫抑制性樹状細胞が上昇する→これによって動脈硬化が抑制されるというデータがある。

・腸内細菌叢のバランスは家族間で同じものではないらしい。大体、3-4歳でバランスは決定するらしい→やはり「みつごの魂、百まで」ということのようですね。

 

一般演題

★名大のデータ:オンデマンド血友病患者のABRをチェックした。

 3%以上(凝固法)でABRが一気に低下していた(ほぼ0

 5%以上(合成基質法);上記

 もともと合成基質法は凝固法よりも第Ⅷ因子活性は1.3倍くらい高く出るので同様の結果と考えてよいと思われる。

 

ランチョンセミナー

DICについて

・血栓止血学会DIC診断基準2017年版がもうすぐ発表される

1.     造血障害型 2.感染型 3.基本型 の3種類に分けており、診断するためだけでなく、そこから抗凝固治療を開始するべき(それまでは抗凝固治療開始すべきではないということ)という概念での基準となる。

・特に感染に対する初期の凝固反応はNETsなども含めて、凝固することによる感染の局所化作用でもあり、抗感染作用なので、早期すぎる治療はむしろ敗血症を悪化させることが分かってきたため。

・なので、敗血症(敗血症性ショックだとしても)だから抗凝固治療を併用するのではなく、敗血症性DICと診断してから抗凝固治療を開始すべきという概念となった。その診断をどうするのか?ということで、救急医学会の急性期DIC診断基準では早すぎる診断になってしまう可能性が高いため、上記の血栓止血学会診断基準の方がよいであろうという概念。

・敗血症性DICに対しての治療では、アンチトロンビンとTMは推奨できるが、ヘパリン類は推奨しない(弱く)ということとなっている。