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CROI 2017 [2017/2/13~16 シアトル] 参加報告
2017.03.24 19:09
報告者 : 四本美保子
エイズ予防財団からの参加者募集でCROIに初めて参加しました。貴重な機会を与えて頂きました。
1.抗HIV療法
最も興味深かったのはlong-acting ARTについての講演でした。Cabotegravir-LAとRilpivirin-LAがphase3まできている以外にモノクローナル抗体のIbalizumabやVRC01がphase2を行っていて他にもHIV capsid inhibitor のGS-CA1は既存のART(EFV, DTG!, ATV)よりも強力で耐性株にも有効で、まだヒトでのデータの段階ではありませんがヒトでは月に1度かそれ以上の投与間隔が期待されているということです。また、ナノフォーミュレーションという手法を用いることにより既存のARV(TDF、LPVr、RTV、DTG)の半減期を延長させる方法も出てきているという報告もありました(Kraft JC, AIDS 2017, Gnanadhas DP, J Clin Invest 2017)。Long-actingにするための投与方法としても、筋注以外にTAFや新規NRTIのMK-8591(EFdA)、Etonogestrel, levonorgestrelのインプラント(半減期40日と80日、年単位!)という試みも行われているとのことです。PK studyからLA-RPVを小児や青年期に用量調整することに関しても研究が行われていて投稿中とのことでした。問題点としては注射液量を下げることや副作用に関して未知であることなどが述べられていました。
近い実用としての注目としては新規INSTIのBictegravir(BIC, GS-9883)です。1回/日でINSTI耐性に強い薬剤であり、ブースト不要で薬物相互作用は少なくF/TAFとの合剤とF/TAF/DTGの比較のphase 2 studyのHIV RNA量50コピー以下の結果が48週で97%対91%であり、当日午後のLancet誌(Paul E Sax)に公表されるということでした。
維持療法としてはDTGとRPVの2剤療法(SWORD試験I,II)の48週の成績は3~4剤regimenと比較して非劣性であるということでした。両群の95%がHIV RNA<50コピー/ml を維持していたということなのでHIVの治療の枠組みが変化することになるかもしれません。維持療法としてのDTGのmonotherapy(BCN007)に関しては9%でウイルス学的失敗が認められたということで不十分であり、維持療法としてのDTG+3TC(ANRS167,Lamidol Trial)は40週で有効であるという評価であり、耐性歴のない症例に新しい選択肢となるかもしれません。
また、新規NNRTIのDoravirineのDRVrとの比較のphase3 studyの48週の成績が発表され、同等とのことでした。新規NNRTIであるElsulfarivirineのEFVとの比較phase2に関しては48週で抗ウイルス効果は同等でありCNS系の副作用はEFVの半分で皮疹はなしとのことでした。
抗体療法に関してはそれまでの治療レジメン数が20という耐性の多い症例にIbalizumab注の投与をそれまでの治療に重ねた試験の24週の成績は発表されていました。別の抗体であるUB-421を有効な治療のある患者さんにスイッチで行う試験の発表が台湾からありました。
新しい薬がまだまだ控えていることがわかり楽しみです。
2.長期合併症の問題は続く
早期ART開始は炎症を減少させることによって長期合併症を抑えることがSTART試験で示されましたが、CVD risk、神経認知機能、COPDは早期のART開始で減らない(N Engl J Med)そうです。CD4 nadirが日和見疾患とCVDに関連する(JID 2016:214)と報告されており、また、MI riskは今やnon-HIVとかわらないということです。早期ART以前に、早期診断できないと治療はできないので、CD4 nadirが低下する前に診断することが課題です。
3.リザーバーとCure
2週以内の早期ART開始はリザーバーサイズを縮小させ、ART中断後リバウンドまでの期間が長くなるということはいわれていましたが、Shock and killでは潜伏リザーバーを十分起こすことができず、複数のメカニズムをもった抗体(VRC01)もART中断後のウイルス量のリバウンドを抑えることはできないということでした。まだまだ近い将来のことではなさそうな印象でした。幹細胞移植後も組織(回腸、肝臓、脾臓、肺、骨髄、リンパ節)ではHIV DNAが持続しているという報告では組織のリザーバーの関与が大きいのだろうとされていました。
4. 日和見疾患
結核についての発表が目立ちました。INHを最初の14日間投与(A5307EBA trial)するphase2 studyでは喀痰の結核菌量を経時的にモニターし同様の減少を示していました。XDR-TBに対するpretomaid,bedaquiline, linezolidの治療やアフリカのdrug sensitiveおよびMDR-TBに対するBPaMZ regimen(bedaquiline, pretomaid, moxifloxain, PZA)の治療の報告も行われていました。結核のIRIS予防に関するPSLの使用のメタアナリシスの結果が報告され、PSL40mgの使用はTB-IRISの発症を30%減少させ副作用も少ないと報告されていました。
5. PrEPとPEPについて
Black MSMやyoung adultに必要なのに届いていない、アクセスのしやすさに地域差があるのを解消するための手段として地域の薬局で行うことでPrEPを届けよう、服薬率を上げるために電話しているなど、PrEPがあるのは当然でそれをどう普及させるかという非常に具体的な話題でした。しかし、米国ではPrEPは保険でカバーされますが保険に加入していない人も相当数おり、保険に入っていない人がPrEPを行うためのツルバダは1錠いくらするのかについては、複数の先生に質問しましたが"Good question! I do't actually know."という答えしか返ってきませんでした。ワシントン州では保険の有無に関わらず州が無償で提供しているそうです。値段のつくものではないようでした。PrEpはみんなのためのものである、みんなのものにしようという努力がなされていました。日本ではPrEPの対象はみんなではないしぜひそうなるべきであるとは考えませんが、保健所の抗体検査に来る外国人からは「日本ではPrEPやPEPはどうなっているのか」という質問を受けることは日常的であり、2020年のオリンピックに向けて人の移動がさらに多くなってくることを考えると、お金を出して希望する人の手に入るための方法は必要でしょう。挙児希望のディスコーダントカップルの場合にも倫理的に認められるべきであると考えます。
6. 90-90-90について
3番目の90についての報告が注目されていました。ACCからはベトナムで3番目の90が達成できたことが報告されていました。現在は世界的にみて60-46-38であるということです。日本では治療の提供とウイルスの抑制に関してはある程度達成できていますが1番目の90の達成が問題です。ジンバブエでは1番目は74%、2番めと3番目がそれぞれ80%以上であるとのことで高い達成度に驚きました。
ニューヨーク市からの報告ではSexual Health Clinic(STD clinic)はHIVの診断でもPrEP開始の場としても重要な役割を担っており、Prevention and Treatment cycleをうまく回すことでHIVの流行を終わらせようとしているという発表がされていました。症状がある時だけ行くのではなくて健康維持のために無症状でもSexual Health Clinicに行くという流れを作るということです。これは、感染の機会のある人に効率的に検査の機会を提供することになるので有効であると思いました。保健所のHIV抗体検査を手伝っていますが、意識が高く感染リスクはそれほど高くない外国人が"Just to check"という低い閾値で抗体検査を受けに来ることに驚かされます。日本人での検査機会をどのように広めていくかは、課題ですが、少なくとも勇気を出して検査を希望する人は断らないで検査が受けられるようにする予算の設定は必要かと思います。
最後に、今回のCROIは日本人の参加が過去最高の人数であるということでしたが、他の病院の先生方と顔の見える関係になれたことも収穫でした。4日間で消化しきれなかった部分もありましたが、復習して臨床・研究の場で次につなげ、患者さんに還元したいと思います。
東京医大病院 臨床検査医学科 四本美保子
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