東京医科大学

麻酔科学分野 麻酔を受けられる患者さまへ

Staff Room

学会・研究会の報告

麻酔薬の作用機序

投稿者:内野

カテゴリ : 学会

第3回は麻酔薬の作用機序についての講演です。

Mechanisms of anaesthesia (CME Topic 10)

 

Mechanisms of Anesthesia

麻酔薬による意識消失の作用機序はいまだに明らかではあない。

今回、分子生物学的標的を取り上げ検討した。

    GABA受容体

    K2Pチャンネル

    NMDAチャネル

    グリシン受容体

    ニコチン・ムスカリン受容体

    カチオンチャンネル

    シナプス前膜にあるvoltage-gateナトリウムチャンネル

    ~⑦はすべて意識消失を誘発する。抑制と興奮のバランスで意識が成り立っていると考えられている。GABAは抑制性ニューロンで静脈麻酔薬のほとんど(ケタミン、ゼノン以外)が作用。K2Pチャンネルにはゼノンや笑気が作用する。NMDA受容体にはケタミン、笑気が作用し、受容体を抑制する。これはいかにリンクするか?以下のように考えられている。

    大脳皮質下と大脳皮質によって覚醒と睡眠が制御されている。特に、大脳皮質によって覚醒が誘発され、両者が相反抑制を行っている。意識のスイッチは鎮静下では機能するが、麻酔下の脳には意識を制御するマスターキーが存在する。大脳ー視床の連関が麻酔薬による意識消失には重要。

    遺伝子改変動物、電気生理学的実験、脳内への薬物注入による実験を行ってもその機序は明らかではない。C-fos タンパク発現が麻酔作用の誘導にも重要といわれているが人では明らかではない。

    コリン作動系:ニコチンを視床に注入して、覚醒と睡眠のスイッチに関わることをAlkireが報告、偶然Xieらは、フィゾスチグミン投与によってセボフルラン麻酔下に4名覚醒が起こることを見出した。また、プロポフォール麻酔下の11人にフィゾスチグミン投与することで覚醒することが明らかとなった。無意識状態と覚醒状態の人を比較した研究では、視床、パーキンジ細胞、頭頂葉の活動低下を示した。

    ヒスタミン作動系:視床後部のヒスタミン作動系を破壊することで大脳皮質との連関を遮断したところ、イソフルレン麻酔からの覚醒までに時間がかかることが明らかとなった。乳頭体を破壊したラットではコントロールに比較して覚醒が延長した。しかし、麻酔薬の感受性は変化しなかった。

    ノルアドレナリン作動系:青班核を破壊したラットにケタミンを投与すると麻酔の持続時間が短くなることが明らかとなった。一方で、GABAを介するチオペンタールの作用時間は延長することが分かった。

    オレキシン作動系:GABAβ3受容体knockout マウスの脳スライスを用いてwhole cell patch clampにてプロポフォール麻酔下に脳弓周囲核、乳頭体核、青班核のGABA抑制系のニューロンからの記録を行った。この結果、視床下部、脳弓周囲核、乳頭体核が麻酔薬のプロポフォールの直接のターゲットであることを発見した。さらに、乳頭体核に存在するヒスタミン作動系ニューロンや脳弓周囲核のオレキシン作動系ニューロンがプロポフォールの直接のターゲットであることを発見した。麻酔薬の感受性の点から、青班核が麻酔薬のプロポフォールの主要なターゲットであると思われる。また、Keix等の報告からイソフルランとセボフルランもオレキシン作動系ニューロンにおけるc-fos発現を抑制することが明らかとなった。オレキシン作動系ニューロンの抑制は覚醒遅延を引き起こすことも判明した。Gompf等は、麻酔の導入や覚醒についてオレキシンKOマウスを用いてc-fos発現を免疫染色と電気生理学の手法を基盤とした解析をハロセンを用いて行った。結果として、視床下部のオレキシン作動系ニューロンや青斑核のノルアドレナリン作動系ニューロンのどちらも麻酔導入には必要なく、覚醒においても麻酔薬の影響を受けないで活動をしている他のシステムの存在を指摘している。

通常の睡眠では、青斑核のノルアドレナリン作動系ニューロンの抑制により、視床前方のVLPO核が活性化され、乳頭核(TNN)に対してGABAを放出する。TMNの抑制は脳球周囲核(PeF)に対するヒスタミンの放出を抑制し意識消失が起こる。Nelson等の研究から、全身性にGABAginを投与することでデクスメデトミジンの効果を緩和できることが判明した。デクスメデトミジンはTMNを介したGABAの放出により意識消失を誘発することも判明した。

 

EEGの変化より、催眠誘導時の皮質下の特異的な変化を報告している。麻酔薬は、用量依存性に脳の特異的な部位(楔部、傍楔部、後部帯状皮質、前頭頂皮質)の活動を抑制するという類似性を有している。プロポフォール、バルビツレート、ゼノン、吸入麻酔薬、ベンゾジアゼピン、α2アゴニストなどがこの性質を有している。

睡眠、全身麻酔、昏睡、植物状態の患者の局所的な代謝の変化を比較すると、前述した部位の代謝に変化があることが分かっている。ケタミンは意識消失を誘発するが、従来の麻酔薬とは全く異なる。内包、帯状皮質、視床、線条体、前頭皮質の脳の活動性を上昇させる。また、局所の脳血流が増加する。

睡眠導入薬を投与すると脳のどの部位が最初に影響を受けるかを研究した結果、まず、大脳皮質が抑制され、次に皮質下の構造である皮質―視床路の影響を受けると考えられている。大脳皮質と皮質下の脳波を比較すると麻酔導入では大脳皮質の脳波がまず変化するが、視床の脳波は変化しないため

皮質―視床の連関によって視床の活動性は制御されることから視床は麻酔薬の最初のターゲットではないと考えられている。

新しい概念として、consciousness networkという考えが提案されている。

脳内には、様々な働きをするキャラクターが存在していて、これらのキャラクターがコミュニケーションを取り合って物事を知りしていくという概念である。すなわち、脳のさまざまな部位が結合して、機能するためにはお互いがコミュニケーションを取り合う必要があるということである。

Functional MRIの研究から、目をとじさせていくつかの事象を遂行させた際に、脳内には約10通りのネットワークとそれに関係するキャラクターが存在して意識に関与していることが判明した。そのひとつが、前頭―頭頂ネットワークである。

ネットワークに含まれるもうひとつの機能にanticorrelationがある。これは、ひとつの機能が働いているときにもう一方の機能が抑制されている場合を指す。

GABAアゴニストは、ネットワークを抑制して高次機能を遮断する。まとめとして、全身麻酔の作用としてまず、大脳皮質が抑制され、次に皮質下の構造(視床)が抑制される。

大脳皮質・次に視床を抑制し、意識消失を誘発する。しかしながら、感覚と運動の機能は維持される。プロポフォールでは、線条体の機能を抑制するが、視床の機能は賦活化されている。このことから、高次機能は抑制されるが、感覚のネットワークは維持されることが明らかとなった。

     麻酔薬の作用機序は大変複雑であることが分かりました。

 

一覧へ戻る