東京医科大学

麻酔科学分野 麻酔を受けられる患者さまへ

Staff Room

主任教授の挨拶

ご挨拶

主任教授 内野博之

 近代麻酔科学は、モートンらによるエーテル麻酔手術よりも40年以上前の1804年に華岡 青洲によって通仙散を用いた全身麻酔が世界で初めて手術麻酔として施行されたことにその端を発します。その後、術中の麻酔管理のみならず術後や感染、DIC,外傷などに対する全身管理、急性痛や慢性痛に対する痛みの管理および癌患者の終末期に関わる緩和医療などの生体侵襲から患者の生命の安全を護る「生体侵襲防御学」へと発展して来ています。超高齢化社会を迎える我々医師に必要な事は、予備力の少ない患者さんの呼吸・循環・栄養管理だけではなく、全身の骨格系の変形に伴う痛みを原因とするロコモーティブ症候群を有する患者や増え続ける癌性疼痛患者への対応が求められて来ます。これらの病態に確実に対応できる医師は麻酔科医以外に他なりません。患者中心の安全・安心な麻酔科医療を提供すべく手術室での麻酔管理業務や術後の全身管理ならびに疼痛管理を含む周術期管理のエクスパートとして医師たちが研鑽を積みそのニーズに確実に応えられるように日々努力し取り組んでおります。日本は、20年後には人口減少問題や医師過剰の問題に直面して行く可能性があります。しかし、手術室業務、集中治療、ペインクリニック、緩和医療などの各分野における高い専門性を有する我々麻酔科医は大きく変動して行く医療の流れの中にいても自信を持って生き残っていける職種であると自負しております。多くの若手医師の方が我々の教室でプロフェッショナルな麻酔科医を目指されることを期待しております。

東京医科大学 麻酔科学分野
主任教授  内野 博之

医局の理念

患者中心の安全・安心な麻酔業務の遂行のために

1) 東京医科大学麻酔科学分野の医師であることの自覚と誇りを持ち、大学の校是である「正義・友愛・奉仕」の気持ちを持って治療に全力を尽くします。
2) 刻々と変わる臨床現場における、適切な臨床的判断能力、問題解決能力を備えることを目指します。
3) 医の倫理に配慮し、診療を行う上での適切な態度、習慣を学び、人への感謝と思いやりと医療に対する愛情を有する麻酔科医師となることを目指します。
4) 常に進歩する医療・医学に則して、生涯を通じて研鑽を継続する向上心を持ち、弛まぬ努力により知識と技術の向上に努めることリサーチマインドを有することを目指します。
5) チーム医療を担うための人格とリーダーシップを有する模範となる人材となることを目指します。
6) 「学則不固」をモットーに十分な麻酔科領域の専門知識と技能をの修得を心掛けます。

1.医学教育について

  卒前教育では、医学生に対して麻酔科学分野の基礎教育を徹底し、医学生一人一人に手術麻酔管理症例を受け持たせ、診療参加型臨床実習を通じて、基本的な技能、臨床推論能力の養成を目指します。さらに、高機能シミュレーターによる問題発見・解決型学習を積極的に行い,評価し再学習を促しす中から危機対応能力や安全管理能力の育成を目指します。後期研修医教育では、専攻医プログラムに沿って心臓・小児・産科・神経・呼吸器外科等の麻酔管理学に加えて集中治療医学、ペインクリニック学ならびに緩和医療学を中心とした麻酔科学の実際を徹底して学ばせ、麻酔科専門医の資格取得を目指しています。

A.学生教育の目標

① 診療参加型臨床実習を通じ、診察能力・臨床推論能力を高める
② 問題解決型学習(PBL)の活用により、講義を工夫する
③ 少人数制の指導を行う
④ 高機能シミュレーターによる医療安全教育(BLSを含む)の推進

B.初期研修医教育の目標

① 研修医の興味・能力に応じた柔軟性のある研修プログラムの提供
② 気道確保の手技の習得、血管確保などの基本手技の習得
③ 患者との対話・問診を重視した診察能力の向上
④高機能シミュレーターによる危機的状況の解決法の習得

C.後期研修医教育の目標

①多様化する麻酔科診療に対応した麻酔管理学の習得
(一般の外科麻酔のほかに神経麻酔・小児麻酔・心臓麻酔・神経麻酔・ペインクリニック・集中治療医学・緩和医療学の基礎を学ぶ)
② 先端・先進医療を学ぶための国内・海外留学の奨励・機能形態学等 の再研修の奨励
③ 学会発表、国際学会への参加・麻酔科標榜医・専門医・指導医の資格取得
④ 集中治療専門医・ペインクリニック専門医などのサブスペシアリティ (より高度な知識と技術の習得)の確立
⑤ エビデンスに基づく危機管理・安全管理教育の徹底
⑥ 問題解決意識とリサーチマインドを有する医師の育成(研究の推進)
⑦ 高機能シミュレーターによる危機的状況の解決法の習得

2.研究について

 東京医科大学麻酔科学分野では、これまでスウェーデン・ルンド大学と共同で「敗血症」、「虚血性脳神経細胞死」などの病態とミトコンドリア機能不全の連関について研究を行ってきました。これまでに多くの助成金、科学研究費等を取得しております。また、これらの研究を基盤として「敗血症脳症におけるミトコンドリア機能解析への応用」や、「血小板ミトコンドリア機能に及ぼす全身麻酔の影響」について大学院生が研究を進めています。また、現在、解明が急がれる麻酔薬の神経毒性についての研究もips細胞を用いて研究を進めています。基礎・臨床各教室、関連研究室(慶応大学生理学教室、東京医科大学医学総合研究所,東京都臨床医学総合研究所)と連携し、麻酔薬の神経毒性のメカニズム、敗血症脳症における脳障害のメカニズム、トランスポーターの役割解析や多臓器障害のメカニズム解析を行い、臨床へ還元するトランスレーショナル(橋渡し)研究を目指しています。さらに、「臨床における疑問を解決するための研究」の重要性から「人工心肺を用いた術中・術後の血小板ミトコンドリア機能解析」を通じて臨床における研究も国立循環器病センター・麻酔科医師たちと積極的に進めております。また、研究を推進するために、海外研究者を定期的に招聘し技術の向上とLANを介したビデオシステムによる共同研究を通じ、論理的思考や論文作成能力を高め,国際的な成果をあげる医師を養成していくことを目指しています。

3.臨床について

  麻酔科学は、「生体侵襲防御学」という名前の通り患者さんを多くのストレスから護って行く学問体系であります。そのために手術室での麻酔管理学、集中治療医学、ペインクリニック医学ならびに緩和医療学の習得に取り組んでおります。超高齢化社会の患者のニーズに対応できる医師である我々麻酔科医のadvantageは大きく、急性期や慢性期医療におけるプレゼンスは高く、その活躍の場は限りなく広いと言えます。

A. 手術室での麻酔管理業務

  新宿では14室の手術室で年間5600件の全身麻酔症例を管理しています。心臓血管外科手術、呼吸器外科手術、消化器外科手術、頭頸部外科手術、脳神経外科手術、産婦人科手術、乳腺外科手術、小児麻酔などの外科系のほとんどの手術が日々行われています。そのため、多くの手術症例を経験でき、研鑽を積むことができます。専攻医プログラムでの心臓麻酔や小児麻酔研修に他施設のラウンドを取り入れて知識と技術の研鑚を行っています。また、新宿では、心臓や大血管手術にに加えて慢性血栓塞栓性肺高血圧症に対する肺動脈内膜摘除術(Chronic Thromboembolic Pulmonary Hypertension:CTEPH)などの手術が経験できます。心臓麻酔に対しては、国立循環器病センター麻酔科から毎月定期的に医師を心臓麻酔の指導と経食道心エコーの教育のために、小児の特殊症例に対しては埼玉小児医療センター麻酔科から毎週医師を招聘し教育と知識の向上に努めています。さらに、呼吸器外科による肺手術の症例数、血管外科のステント手術や先進医療としてのロボットによる(Da vinci手術)前立腺、婦人科疾患の手術件数は全国でも有数であり、多くの症例が経験できます。

B. 集中治療(ICU)

 2014年度より札幌医大集中治療部から今泉 均教授を招聘しICUのレベルアップを図って来ております。当大学の集中治療室は日本集中治療医学会認定施設であり、10床で運営を行っています。心臓血管外科、消化器外科、呼吸器外科、泌尿器科、産婦人科などのほとんどの外科系手術の術後の患者や病棟からの重症疾患患者に対してエビデンスに基づく、質の高い、循環、呼吸、栄養管理を行うことで生体侵襲から患者さんの生命の安全を護ることを心掛けています。また、重症呼吸不全患者に対してのECMOを用いた治療など常に高度な治療が展開されています。

C.ペインクリニック

 高齢化社会に向かう日本では急性・慢性の疼痛患者さんの増加が問題となっておりますが、その受け皿となる診療科は明確ではありません。今後はロコモーティブ症候群に伴う疼痛患者の更なる増加が予測されますので当科では急性・慢性の痛みの総合的ケアを外来および病棟で行っています。2010年7月よりNTT東日本関東病院から大瀬戸 清茂教授が招聘され5年が過ぎペインクリニックに精通した若手が少しずつ育って来ました。現在は、従来の神経ブロックに加えて超音波ガイド下神経ブロックを併用して安全な神経ブロックを施行するとともに、透視下において三叉神経ブロック、神経根ブロック、椎間板注入術、高周波熱凝固など多岐に亘る神経ブロックを行っております。また、脊髄硬膜外電極植え込み術などの先進的な医療も経験できます。田上教授が担当されておられる緩和医療部との連携も密なので癌性疼痛患者に対するCTガイド+透視下の腹腔神経叢ブロックや胸部および腰部交感神経ブロック、上下腹神経叢ブロックなどのブロックも頻繁に行われています。大瀬戸教授のモットーはペインクリニック学普及のために教育を徹底し、患者中心の安全なペインクリニックの知識と技術を広めていくことを目指しておられます。そのため、ペインクリニック外来では、患者の痛みの原因を診断する能力を問診を通じて身につける教育を提供することを目指しています。そして、自らが選択した神経ブロックを解剖学的知識の研鑽と上級医からの指導によって行うことで自分の診断・治療が正しいものであったのかを検証し、ペインクニック専門医を目指しての多くの研鑽を積むことができます。また、心因性疼痛患者の治療に対しては臨床心理士を配置して対応しております。現在、約50件/月の透視下神経ブロックを行っており、日本の大学機関の中でも有数の施設となっております。

D.緩和医療

 2014年4月より、当科の田上教授が緩和医療部の責任者となり、がん患者に対しての緩和医療にあたっております。緩和医療を受けている患者さんの神経ブロックはペインクリニック外来と協力する形で行われ、がん患者のQOLの向上に取り組んでおります。麻薬の投与の方法や家族との会話のあり方など終末期の癌性疼痛患者の増加によりそのニーズが高まっています。