東京医科大学

麻酔科学分野 麻酔を受けられる患者さまへ

Staff Room

医局カンファランス

麻酔研修カード ver5 迅速導入(挿管失敗の対処)

報告者:石崎

カテゴリ : 関連病院

私が推奨する迅速導入です。
肝は、① 迅速導入中のお作法
   ② Failed Intubationの対処法、です。

戸田 麻酔研修カードver6.pdf

戸田 麻酔研修カードver6.005.jpg












忘れてはならないのが、何を恐れているがために迅速導入するかという事。
そうです、嘔吐です。

薬を入れて時計とにらめっこ、
のどを押して待つ事60秒!さあ、挿管!
マスクを外して喉頭鏡を挿入。あれ、咽頭に水がたまっている?
こんな経験をしたことありませんか?

迅速導入時の嘔吐とは、大抵、こんなもんです。嘔吐というと、ゲボッと吐くイメージですが、それは意識下挿管で経験する嘔吐であって、迅速導入で筋弛緩がかかった場合の嘔吐は、静かな逆流、静かな液面上昇、という感じです。迅速導入は、それに備える60秒でなくてはなりません。

迅速導入で意見が分かれるのが、体位です。
 ヘッドアップ(胃より喉頭が高い)で、逆流を予防すべし。
 ヘッドダウン(喉頭より気管が高い)で、誤嚥を予防すべし。
東京麻酔専門医会リフレッシャーコースで浅井先生に迅速導入の講演をしていただいた際に伺ったところ、「どちらでも。私は水平でやっている。」とのお答えでした。私も、水平でやっています。
浅井先生は、輪状軟骨の圧迫についても詳細に検討されていました。圧迫は、意識があるうちから嘔吐を誘発しない程度の10Nで行い、意識消失後は30Nにします。10Nというのは、3本指で重さ1kgになるように押した強さで、ガーゼカウントの秤で練習すると良いそうです。また、重要かつ経験を要する手技なので、看護師でなく麻酔科医がすべきともおっしゃっていました。是非一度、LiSAの特集号を読んでみて下さい。

さて、もう一つ。
大抵の本には、単に「投薬60秒後に挿管」としか書かれていませんが、60秒とは、どこからどこまでの事でしょうか? スタートはプロポの入れ始め、それとも、全て入れ終わった後? 60秒後は喉頭鏡の挿入、それとも、挿管完了? 迅速導入は短時間で状況が変化していく導入法ですから、実は10秒単位でやる事が刻々と変わり、それを完璧にこなしてこそ、安全な迅速導入といえるのです。次に、そのお作法をご紹介いたします。

迅速導入のお作法
正式にはお勧めできませんが、私は一つのシリンジに4つの薬剤を混ぜて準備しています。それを一気に入れて、隣の後押しシリンジで生食5ccを後押ししますが、これだけでも10-15秒はかかります。秒数のカウントは薬剤の入れ始めにスタートし、手術時間のカウントアップ時計を利用して、看護師に30秒おきにアナウンスしてもらいます。
呼吸が止まったらマスクは意味がないので外します。30秒のアナウンスで輪状軟骨圧迫を始め、徐々に圧迫を強くしていきます。同時に、優しくスニッフィングポジションを取り、次の喉頭鏡挿入に備えます。
60秒のアナウンスで喉頭鏡を半分挿入し、咽頭を観察します。右手には吸引チューブを持って、静かな嘔吐に備えます。
90秒の時点で喉頭鏡を進め、喉頭展開します。この時点で反射が残っていれば10秒ずつ待って、遅くてもスタートから120秒後までにはカフ注入です。

この間、低圧で換気を継続することを勧める意見もありますが、下手な換気は胃の膨満を助長して嘔吐を誘発するので、妊婦、肥満、小児でもなければ避けたいところです。その分、事前の酸素化を完璧に実施しておきましょう。


さて、ここからが、今回のもう一つの話題。
迅速導入で挿管を失敗した場合、皆さんはどうされていますか?
テキストには、「低圧でマスク換気すること」とか、「落ち着いて挿管すること」など、励ましにもならないような事しか書いていません。

挿管失敗時の対処法
ここで、冷静になって考えてみましょう。
嘔吐を心配している状況で、せっかく食道にチューブが入っていて、しかもカフが膨らんでいるのですから、これを利用しない手はありません。チューブはそのままにして、サクションチューブを挿入し、胃内容を吸ってしまいましょう。残渣が詰まる場合や大量に沸き上がってくる場合は、吸引ホースをダイレクトに挿管チューブにあてがいます。
そして、チューブを左口角に寄せて、そのまま再挿管です。介助者が慣れていれば、食道に挿入した挿管チューブの吸引と再挿管の作業は、同時進行でできます。ちなみに、左口角に寄せた食道チューブは、再挿管の妨げには殆どなりません。そしておそらく、その間の輪状軟骨圧迫は軽い力で充分でしょう。

ここで、懸命な皆さんは、初めに食道挿管したくらいだから、2回目も食道挿管する可能性が高いのでは?と思われることでしょう。確かに、その通りです。ならば、マスク換気は避けられない?いえいえ、その場合も良い方法があるのです。ここからが話の佳境なのですが、今回はここまで。確かめたい事が残っているので、いずれ紹介することにします。
興味ある方は、10/19 (土) の新都心麻酔カンファランス(身内の会でスミマセン)をお楽しみに。


一覧へ戻る