パニックカード ver1.3 高度徐脈
2013.05.19
報告者:石崎
情報の信憑性を判断するために、カード作成の日付とレファレンスを記載しました。
新しい知見が加わった場合は、順次、更新していきますが、皆様からのご指摘も頂けると非常に助かります。
L版の写真用紙にサイズを合わせ、高度徐脈カードを少し変更したので、ver1.3をご使用下さい。
【高度徐脈】
高度徐脈について、AHA2010ではアドレナリンと経皮的ペーシングは同等の推奨度になりました。アドレナリンは経皮的ペーシングを準備している間や無効時に使用とされており、2-10mcg/minを持続静注としています。個人的にはアドレナリン1Aを100mlに希釈して1-3ml(iv)をやってしまいそうですが、AHAではワンショットの推奨はなく、むしろ、アドレナリンなどの薬物投与は頻脈などの危険性もあり調節が困難とも忠告しています。
アドレナリンと経皮的ペーシングは同等の推奨度ですから、あらかじめ経皮的ペーシングパッドを貼っていた場合は、経皮的ペーシングを先行させても良いようです。救急における経皮的ペーシングの有効率は80%で、不成功の多くはペーシングの痛みや不快感が原因ですから、麻酔中の有効率はかなり高いと考えられています。(予防的使用として経皮的ペーシングに全てを託すには、少ない%ですけど。)
一方、経皮的ペースメーカーの制限としては、麻酔中はペーシング刺激による体動が術操作の妨げになることや、覚醒に向けては薬物治療に移行しておく必要があり、薬剤に反応しない場合は、経静脈ペーシングを考慮する必要もあることなどがあげられます。この他に、Atrial kickがないために、洞調律に比べて一回拍出量が20%程度低下してしまうという欠点があります。この点では、心房収縮を回復させる薬物治療の方が有利といえます。また、ペーシングでコントロールできるのは心拍数だけですので、当然、収縮力低下や血管拡張に対してはinotropicやvasoactiveが必要となります。状況によっては、これらを別々にコントロールできるというのは利点となるのかもしれませんが。
高度徐脈といっても、程度も様々、原因も様々です。経皮的ペーシングに関するAHAガイドラインでは、徐脈に伴う意識障害や血圧低下があってアトロピンに反応しない徐脈ではクラスⅠ、薬物過量やアシドーシス、電解質異常による徐脈ではクラスⅡa、低体温による徐脈ではVT誘発の危険があることからクラスⅢとなっています。また、院外心静止に対する経皮的ペーシングは推奨されていませんが、医療従事者に目撃された心静止や、除細動や薬物過量などによる症例で5分以内であれば、経皮的ぺーシングを試みるべきとされています。
ところで、AHAにはエフェドリンの記載がありません。「アトロピンmax3mgの次はドパミンもしくはアドレナリン」です。日循の不整脈薬物療法ガイドラインにも徐脈に対するエフェドリンの記載はなく、「アトロピン、イソプロテレノール、アドレナリン、ドパミン、テオフィリン、シロスタゾール」などが挙げられています。麻酔における使用頻度や簡便性、極端な頻脈や血圧上昇の回避などを考えると、馴染み深いエフェドリンを使わない手はないように思いますが、低血圧でもない限り、エフェドリンよりもアトロピンmax3mgを試せということなのでしょう。
以上を踏まえると、アトロピンやエフェドリンで反応なければ、経皮的ペーシングを準備している間にアドレナリンもしくはドパミンを開始し、経皮的ペーシングの準備ができたら60bpmのレートを確保、その後、原因検索と治療を試みながら、それでも改善しない高度徐脈なら、頻脈・血圧上昇に注意してアドレナリン、ドパミンを徐々に増量し、最終的に経皮的ペーシングからの離脱を試みる、といった流れが良い様に思います。
一枚のパニックカードに、このような事柄をまとめるのは不可能ですから、パニックカードは、多少、私のフィルターを通して作成しています。エフェドリンを入れなかったのは、一応、AHAと日循に準拠したのと、麻酔科ならその前にエフェドリンぐらい試しているだろう、という理由です。
パニックカードの目的は、
① 危機的状況にも冷静を保つ
② 危機的状況に迅速に対応する
③ 重要事項を再確認し大きなミスを防ぐ
④ 治療に抜けがないかのチェックリストとする
⑤ 普段の勉強のきっかけにする
などにあります。
経皮的ペーシングについて不勉強だった自省も込めて言いますが、何も知らない医者がパニックカードだけを頼りに麻酔をかけてはいけません。充分な知識を持った上で臨床に臨み、いざという時には、パニックカードを有効活用するようにしましょう。
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